談話スペースでの話

悟、傑、硝子、祐季の4人は三年になり、傑は相変わらず恋人のことで頭がいっぱいなのだが、同時に限界も感じていた。

「ハグとキスとオナニーじゃ足りない」
「殺されてぇのか」

握り込まれた悟の拳からは、いちご牛乳が滴り落ちる。

「私としてはそろそろ次に進んでもいいのではと思ってる」
「駄目に決まってんだろ殺されてぇのか」

悟のそれはとても親友に向ける顔と言葉ではないのだが、傑の目は据わったままくうを見つめている。

「一応聞くけどオマエの言う"次"って何?」
「セックスだよ」
「殺されてぇのか」
「悟。さっきから殺す殺すと物騒だよ。私はただ、カップルならきちんと段階を踏むべきだと言っているんだ」
「セックスなんかしたら俺の祐季が死んじゃうだろ! 本当ならキスも許したくねぇのに!」

悟は何度も二人のキスシーンを見ている。デートの尾行は勿論のこと、冥冥に月々金を払って烏で見張らせ、その映像データを受け取っている。
傑はそれに気づいてはいて、気づいているからこそ、見せつけるようなキスをするため、悟は「こいつのキスで祐季が孕むのでは」と、気が気ではなかった。

「最近は部屋で二人きりにさせてくれないじゃないか。いつも割り込んで来るし、任務があってもすぐ終わらせて戻って来ては駆けつける」
「当然だろ。傑こないだ危うく手ェ出しそうになってたじゃねーか! 忘れたとは言わせねーぞ」
「あれはただベッドに押し倒しながらキスしていただけだよ」
「たまたま俺が来なけりゃそのままヤってただろ!」

指を差され、傑はムッとしたが、悟の話は止まらない。

「恋人だからって調子乗んなよ。パパ認めねーから。最近の祐季が傑の話ばかりしてるとしても、パパはぜぇっっったい!! 娘にオマエのちんこ突っ込ませねぇから!!」
「そんな直球で『突っ込ませねぇ』って啖呵切るパパ見たことないよ」

心底面倒臭そうな顔で返され、今度は悟がムッとした。
そこに硝子が現れ、「とてもあの子に聞かせられる話じゃないな」とゴミを見るような目をして吐き捨てる。

「祐季は?」
「例の双子と風呂に入ってる」

例の双子・・・美々子と菜々子は、つい先日とある村での任務で、傑と祐季により保護された少女。
他の人間には心を閉ざしがちだが、傑と祐季には懐いている。

「もう娘二人いるんだし、セックスなんかいらねーだろ」
「『きょうだいが欲しい』ってお願いされるかもしれないよ」
「良かったな五条。孫がたくさん出来そうで」
「硝子?」

睨みつける級友を眺めながら、硝子は煙を吐いてニマニマ笑う。

「けどあの子、このクズと付き合ってほんとに毎日幸せそうだし、いいんじゃないの?」
「クズは余計だよ硝子」

傑の指摘を流し、硝子は祐季が普段からかなりの頻度で惚気てることを話した。すると傑は照れ臭そうに後頭部を指でかき、悟はあからさまにそっぽを向く。

傑はそんな悟に言った。

「悟が最近、鬼頭や冥さんと連んでコソコソやってるのはわかってるよ。どれだけ悟が不愉快でも、それでも、私は彼女を手放さない」

悟とて、二人が互いに想い合っていることくらい承知している。己の親友と呼べる程のこの男はきっと祐季を生涯大事にしてくれるだろう、という確証もある。
危険と隣り合わせな呪術界においても、二人は特級術師。自分も相手も充分カバーし合える。

だがやはり祐季に対して父性を感じてしまっているために、"奪われる"という危機感なり焦りなりを、どうしても感じてしまうのだ。

「お風呂気持ち良かったね〜」
「!」
「!」

突然の声に、肩を跳ねさせる悟と傑。
硝子はそれを一瞥し、片手を挙げて挨拶する。

「お、祐季。お疲れ〜」

美々子と菜々子と仲良く手を繋ぎながら談話スペースに来た祐季。
Tシャツ&パンツスタイルというラフな格好を見て、あれだけきっちり肌を隠して露出を嫌がっていた彼女が、随分と馴染んだものだ・・・・・・と、級友トリオは感慨に浸る。

「みみちゃんとなっちゃんは、どれにする?」
「・・・・・・これ」
「これ!」

それぞれ抱っこしてもらいながら、自販機のボタンを押す双子。

この後は二人の好きな本を読み聞かせる予定があるらしく、それぞれ缶を小脇に抱えた姉妹に力強く「早く早く」と手を引かれ、会話もそこそこに、祐季はすぐいなくなった。
苦笑しつつも、嬉しそうだった。

「・・・・・・あいつぜってーいい母親になんだろ」
「私もそう思う」

しみじみ呟く男二人に、硝子は珍しく口を開けてケラケラ笑う。

「キッショ」