チーム

その日、五条は朝から夜蛾による説教を受けていた。
昨夜は入学して最初の任務。なんてことのない4級呪霊複数体を祓う内容だったが、五条は共に組んでいる夏油・家入・正蔵寺の3人を置いて一人でほとんど片付けてしまったのだ。

「なんのための4人一組か、考えろ。悟」
「俺一人で全部やれるんなら、それが一番楽でいいじゃん」
「全部ではないだろ。2体は傑が祓っている」

担任の指摘を受けてなお、五条は視線をそらしたまま、不満そうだ。

「つまり悟一人だけでは一度に複数の相手は出来なかった、ということだ。今回は素人ではないアイツらと一緒だから何もなかったが……もしこれが一般人とだったら、お前は守れたか?」
「…………」





「俺一人で行ってれば、そもそも呪霊が前髪たちのとこに向かわなかったじゃんか」
「そうはいかないだろう」

説教から解放されて教室で項垂れる五条に、夏油は厳しい目を向ける。

「その場に君一人だけとは限らない。一般人を背に相手をする状況も考えられる。私だから祓えたが、一般人は4級相手でも太刀打ち不可能だよ」
「先生からも同じこと言われたからいーよ、んなこと」
「呪霊のクラスそのものは大したことなかった。きっと先生は、私たちに臨機応変に立ち回ることを教えたかったんだと思う」

言葉を続ける夏油に、舌打ちが出た。

「んな回りくどい教え方しなくたって、それぞれ戦って身につけりゃいいことだろ。チームで組ませる必要ねーよ。全員一人ずつ行けばいい」
「それ、硝子とゆきにも言えるかい?」

そう。家入と正蔵寺には、自分で戦う武力がほぼない。
家入は高専に入って体術を教わったし、治療をする《反転術式》は使えるが、呪霊に立ち向かう術式はその身に宿しておらず、強大な呪霊に襲われればひとたまりもないだろう。
正蔵寺は名家の生まれではあるが、この家の術式《水面映し》はガードに特化したものである。相手の攻撃を同じ質量で確実にはね返すという強力な術式だが、それ故か、術師本人は呪力を込めた攻撃が一切出来ない。つまりゆきは、「攻撃を受けなければ敵に対して何も出来ない」のだ。

そして、五条は《六眼》の持ち主だ。当然このことは見えている。

「…………」
「ソロならともかくチームとして組む以上、君も協力しないと」
「……なあ」
「なんだい」
「なんでホクロとおっぱいは下の名前で、俺のことは『君』呼びなんだよ」

今度はどんな言い訳を聞かされるのやらと身構えていた夏油は、肩透かしを喰らった気分だ。

「クラスメイトだし名前呼びでいいかなって、彼女たちに許可をもらったんだよ」
「真面目かよ」
「君も聞いてみなよ。許してもらえるかはわからないけどね」

そう言いながらおどけてみせる夏油に、五条は「ムカつく」と呟くと、ガシガシと頭をかきむしる。

「俺だけ仲間はずれはなんか腹立つから、オマエも名前で呼べよ。特別に許してやるから」
「……じゃあ、君も私のことは『前髪』じゃなく、名前で呼んでいいよ。特別に許してあげよう、悟」

差し伸べられた手を、「やっぱムカつく」と言って握った、そんな男子二人であった。