なんやかんやの思春期

「オマエさぁー、待ち合わせで俺と傑が女に絡まれる度にアレすんのかよ」
「え、うん」
「はぁー……」

悟がため息をつく原因のアレとは。
それは、待ち合わせ場所で(見た目だけは)イケメンの男子二人が逆ナンされてるところに「お待たせ〜」って割り込み、男子どちらかの腕に腕を絡めてその豊かな胸を押しつけて、

(私の体が敵うはずない!)
(こっ、この乳神が……!)

…と、相手の女を戦意喪失させるという、「女の武器」を使った策のことである。
それをほぼ毎回ゆきがやるため、流石にどうなんだと悟が諭しているわけだ。

「けど五条お前、最近は完全に、ゆきが来るのわかってて絡まれてるだろ」
「前回は相手が私だったから、露骨にがっかりしていたね」
「うるせっ! うるせっ! 今はそーゆー話はしていませぇーん!!」

大袈裟に反応するイケメンその1を「はいはい」と適当に流してから、硝子は白いビキニを手にした。

「はぁ〜? 硝子はンな清純派ビキニ、クソほど似合わねぇだろ」
「誰が私のって言った? 私は黒か青って決めてんだよ。これはゆきの」

えっ、と間の抜けた声を発してから白ビキニを上から下、下から上と視線を滑らせ、ゆきはオロオロしながら言った。

「これ、お腹とか胸元とかどうやって隠すの……?」
「ふはっ、隠したらビキニの意味ないじゃん」
「上だけなら試着出来るみたいだよ」
「ほぉーん」

多数決はズルい。数で押され、有無を言わさぬ威力がある。
4人中3人から「着てこい」と言われ、残り1人は試着室に押し込められた。

4人は「学生なんだしちったぁ青春しよーぜ」的なノリで、こうして休みを合わせて水着売り場に来ていた。
(プールに行くつもりなので、これだけは、このイベントだけは絶対に譲れないのだと、担任の夜蛾に口を酸っぱくして伝えてある。更に言えば8月の花火大会も譲れないイベントなのだと伝えたのだが、その日は任務が入っており、「プールは許してやるから花火大会は諦めろ。市販の花火セットを買ってやるから」と言われた。)

「ゆきってやたら露出嫌うよなー。制服もだけど、運動着も長袖長ズボンで、露出度の低さが徹底されてる」
「御三家ほどじゃねーけど、一応名家のお嬢様だからな。身持ちがかたすぎてガッチガチ」
「今日だってこんなあっついのに、レースとはいえロングスカートだし、カーディガン羽織ってるし」
「ありゃ付き合う男は苦労すんなぁ」

やれやれ心配だわ、と肩をすくめる硝子と悟。傑はそれを見ながら「君らはゆきの親か何かかい?」と苦笑した。

「露出は恥ずかしがるのにおっぱい押し付けるのは平気って、貞操観念どうなってんのよ!」
「悟にだけは言われたくないだろうね」
「傑も大概だろ。今日朝帰りしたの見てんぞ」
「目クソ鼻クソだな」

しばらく経ってから、試着室のカーテンのわずかな隙間から手が伸びて、「硝ちゃん」と控えめに呼ぶ声。
硝子はコツコツとヒールを鳴らしながら向かい、思いっ切りカーテンを全開にした。

「硝ちゃん!?」
「あごめん、手がつい」
「絶対わざと!」

女子2人の元へ、なんだなんだと男子2人も寄って来た。
寄って来て、一瞬2人が同じ部位を注視しながらフリーズしたのを、硝子は見逃さなかった。

「水色着せてみよーぜ」

とイケメンその1。

「いや、黒の方が白い肌が映える」

とイケメンその2。

そのまま売り場に消えていく背中を見送ると、硝子は「フン、クズ共が」と吐き捨てながら、携帯カメラをゆきに構えた。