「傑くん、体調があまり良くないんなら、少し休もう」
彼女がそう言ってくるのはいつだって、私が呪霊を取り込んだ直後だ。
もしかしなくても、ゆきは気づいている。
ー……呪霊を取り込む際の、あの苦しみに。
だから私は悟が任務に行ってて、硝子も休みで外出している日を狙って、ゆきを部屋に呼んだ。
誰にも聞かれたくないことだから。
本来男子寮と女子寮の行き来は禁止されているが、最早暗黙の了解だ。
私たちは、何度かお互いの部屋でトランプしたり桃鉄したりしている。
ゆきは手土産だと言って、自販機の飲み物をいくつかくれた。
「悟も硝子も誰も気づいていないのに、なぜ私の元気がないとわかったんだい」
他愛ない話をしばらくしてから、私は本題に移った。
「呪霊を飲み込んだあとは、なんとなく元気がなさそうだし、ご飯もさり気なく断ってるから食欲ないのかなって」
「なるほどね」
ゆきはこの手の勘がいいんだろう。
その辺の術師なら気づかない感情の機微を、本能と言ってもいいほどに感じ取る。
彼女になら、教えてもいいかもしれないな。
「呪霊の味はね、雑巾の味なんだ。吐しゃ物を処理した雑巾の味がする」
「…………」
「……ゆき。このことは、二人だけの秘密にして欲しい」
「どうして?」
「非術師を、人々の安寧を守るためだ。味くらい我慢しないといけない。それに弱音なんか吐いたら、悟に何言われるかわからないだろう?」
足手まといになんか、私はならない。変に腫れ物扱いされて気遣われるのも不快だ。
だからこれは、自力で気づいたゆきにしか教えない。…なんだか、彼女には私の弱さを見せてしまいたくなる。そういう雰囲気がある。
「じゃあこれから先、傑くんが呪霊を取り込む度、美味しいご飯やおやつを作る」
「え?」
「任務で数日かかる時や、私が任務の時もあるから、そういう場合はお互い時間が取れる時に作る」
「いや……」
これから先……って、いや、私個人のためにわざわざそんなことをしなくてもいいのに。
ゆきの手料理が美味しいのはこれまで何度も食べてるから、知っている。
けど。
「これは私個人の問題だ。自分で対処していかなければ駄目だ。だから」
「なら、『傑くんを少しでも支えたい』という私個人の我儘ってことでいいよ」
「ゆき……」
少しでも、って。
…正直、少しどころじゃない。そうしてもらえるなら、私はかなり嬉しい。
("嬉しい"?)
嬉しいって、なぜそう思った?
ゆきの言っていることはただのお節介だろう。
そこまで考えた時、私は、私自身が、ゆきの申し出を「お節介」だなどとは言いたくないという嫌悪にも似た気持ちに襲われた。
多分、私は……。
「…そうだな。それなら私が呪霊を取り込む時は、ゆきにご馳走になろうか」
「! ……そうだ、せっかくだし、悟くんと硝ちゃんも一緒に…」
「いや。せっかくなら、キミと2人きりで頼むよ」
同級生にすら嫉妬するほど、私はキミのことが好きなんだね。