よろしくな!

一年生は二年生になり、呪術高専には新しい一年生が入った。

「どいつもこいつもよえーーー」
「悟」

ちらと見るなり「弱い」と吐き捨てる、グラサンの大きな白髪男。そしてそれを諌める、ボンタンを履いた大きな前髪男。

新入生三人は、「ヤバい先輩だな」と察知した。

「じゃー今から組み手でもしましょーよー、センパイ」

そして、そんなヤバい先輩に喰ってかかれるこの同級生も大概ヤバいなと、両脇の男子二人は察知した。

「は? やだねめんどくせー。オマエなんか瞬殺じゃん」
「あ"あ"ーん?」
「はいはい、喧嘩しない」
「!」

やる気満々の女子の両肩に、背後から手が乗る。

「ここでやらなくても、今から運動場で組み手の合同授業でしょう?そこで悟くんをボコボコにすればいいよ」
「だぁーからコイツには無理だっつの!」
「ふふっ」

「ボコボコにすればいい」だなどと言いつつも優しい雰囲気の人だな、と女子は思ったが、気配なく背後を取られたことからその強さを計り知る。






運動場に集まった面々は、それぞれ組んでお互いの力量を測ることとなった。
新入生の七海建人はゆきと、鬼頭夏也乃は悟と、灰原雄は傑と組むことになった。

「怪我したら硝ちゃんが治してくれるからね」
「治療は任せろ。痛くしないよう善処するから」
(((絶対痛くする気だ)))

出来るだけ怪我しないようにしようと、一年トリオは気を引き締める。

「私のは攻撃に呪力を込められない術式だから、呪具を使うの。今回は槍だよ」
「リーチの差がありますね……。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」

挨拶を済ませた七海は、布を巻いた刃物を構える。ゆきは穏やかな笑みを浮かべると、トッと地面を蹴っていきなり距離を詰める。

「!」

反射的に後ずさった七海の武器を狙って突きを繰り出すも、すんでのところで防がれた。が、間を与えることなく今度は槍の柄先が、七海の腹部を襲う。

「ゲホッ!」

生理的な涙で視界が滲む中、七海の首元に刃先が当てられる。

「もう一回ね。次は自分の攻撃後の後ずさり禁止縛りでいこうか」
「はい!」

手加減しているのだろうが、それでも強い。だが、これで一本取れなければ苦労するのは己。
七海の表情からはやる気が溢れている。

「ちょっおま……! 呪力吸収はなしでって最初に言ったじゃねーか! 反則だろ!」

隣では仰向けに倒れる悟に夏也乃が跨っていて、彼女の手から悟の呪力が吸われているのが見える。

「あっれー? 五条先輩、さっき私のこと弱いなんて言ってませんでしたー? 瞬殺?とも言ってた気がするんですけどぉー」
「オマエ可愛くねー!」
「もっと呪力吸っちゃおー」
「てめー!!」

この瞬間から、悟と夏也乃の因縁は出来上がったのであった。





結局三人の中で先輩から一本取れたのは夏也乃だけだったが、七海と灰原も収穫はあり、有意義な組み手の時間となった。

「ふふ、悟くんほんとにボコボコにされてて……」
「まさか五条の治療をするとは思わなかったな」

楽しそうに笑うゆきと硝子の隣では、傑もニタニタしている。

「悟が女性に乗られるとはね」
「うるせ! 単に反則使われたのと、相性良くねぇだけだっつの」
「すごかったよ、夏也乃ちゃん」
「ッ……! えへへ」

抱き寄せられて頭を撫でられ、夏也乃はご満悦だ。

「そんな可愛くねー女、褒めても調子乗るだけだぞ」
「羨ましいんですかぁ〜? 五条センパ〜イ」
「コイツ……」

羨ましいか羨ましくないかで考えれば羨ましいのだが、そんなこと生意気なこの後輩には意地でも言いたくないと、悟は歯を食いしばる。

「ゆき、私もそれなりに頑張ったから何かご褒美が欲しいかな」
「じゃあ今日の夜ご飯は、みんなにグラタン作ろうかな」
「いいね。私も手伝おう」

ゆきと傑の後ろを歩く灰原と夏也乃は「グラタンだ!」「お腹空いたなー!」とはしゃぎ、七海は手伝いを申し出る。

「デザートもつけろよ」
「今朝早起きして作ったプリンが冷えてる頃だよ」

当然のように追加で頼む悟を見た夏也乃が「子供かよ」と呟くと、そういうことは聞き逃さない悟と何度目かわからない口論になった。
悟と夏也乃はゆきから【デザートなし】のペナルティーを喰らい、二人の分を目の前でこれ見よがしに平らげる傑を恨めしげに見つめていた。