「忘れ物はない?」

「大丈夫!行ってきます!!」

心配そうに見守る母の声を背に、家を出る。

季節は春。

見上げれば青空。

今日から始まる高校生活をまるで暖かく見守るような穏やかな春の日差しに笑みを溢すと、夢につながる第一歩を踏み出した。




「私立聡明中出身、飯田天哉だ。よろしく!」

教室に足を踏み入れて早々、突然の自己紹介に一瞬驚いたものの、クラスメートとなる生徒みんなに挨拶をして回っているのだろう彼に感心し、自己紹介を返す。

「想間空子です、よろしく飯田君」

自己紹介を聞けたことに満足したのか、道を開けてくれた飯田君に礼を言うと、彼の横をするりと抜けて黒板に貼りだされた座席表を眺める。

噂によると今年はヒーロー科の一般入試で同点合格者が出たとかで、通常1クラスあたり推薦入学2名・一般入学18名・合計20名のクラス編成を執るところを、2クラスの内1クラスが推薦入学2名・一般入学19名・合計21名になるということだった。

座席表を見るに、この1−A組がその21名クラスのようだ。

自分の席を確認して振り向くと見知った顔。

「百ちゃん…」

「同じクラスでしたのね」

そう言って向けられた笑顔は少しぎこちない。幼馴染であったはずの彼女との間に溝が生まれ、疎遠になってしまったのは一体いつからだっただろうか、何が原因だったのだろうか、考え始めると負の感情に押し潰されそうになる。そんな彼女との関係も、この高校生活で修復できたら良いのに。よろしくね、と笑んで返す私の表情も些かぎこちない。

俯きたくなる気持ちをぐっと抑え、自席に向かうとその隣には、これまた見知った赤と白のツートン。

「は?え、え??ととと轟君?!?!」

「驚き過ぎだろう」

いや、だってまさか同じクラスになれるなんて思ってなくて!まあ俺も驚いたけど。授業でわからないことあったら助けてね、自分でも頑張るけどさ。ああ。轟君が一緒だなんて心強いよ。それは良かった。もー相変わらずクールだなあ。

轟君と反対側の隣の席の生徒はまだ登校していないらしく、着席してそのまま取り留めのない会話を続ける。

轟君は中学の同級生だ。
中学に入って間もない頃、周りの女の子に騒がれるのも他所に読書に耽るその姿に、一体彼はどんな本を読むのだろうと気になって声をかけたのがファーストコンタクトだった。

個性の関係もありよく本を読む私からすれば、彼を引き込むその本に、深く興味を抱いたのだ。あまりにも本のことにしか興味がない(イコール彼自身に一切の興味を示していないという、今考えてみれば非常に失礼な)私の態度を、彼は心底おかしそうに笑った。

容姿の整った彼自身でもなく、またプロヒーローにしてナンバー2である彼の父エンデヴァーでもなく、彼の読む本に興味を抱き近付いてくる人なんて私くらいのものだったのだろう。

そんな自身の言動に対して笑われたせいか、はたまた初めて見た彼の素の笑顔のせいか、人知れず顔が熱くなったのを今でも覚えている。

そんなファーストコンタクトを通じて、気付けば女子の中では1番轟君と仲が良いと噂されるくらいには、委員会や授業中のグループ課題、それから修学旅行の班なんかも、一緒だった。

そんな轟君と、これからヒーローを目指すための様々な波乱を乗り越えていかなければならない高校生活を過ごせる。先程彼にも伝えたが、心強い意外の何者でもない。


結局私の隣の席の子はギリギリの時間に教室へやってきたこともあり、個性把握テストが始まるまでずっと轟くんと話していた。


カーテンコール