彼の恋を止める権利が誰にある

「祐未、プレゼントがある。受け取ってくれないか」

 アレックスが紙袋を抱えて祐未に話し掛けてきたのは突然のことだった。丁度テオの採血を受け終わった直後だった祐未は腰に手を当て微笑むアレックスに向き直り

「なんだよ?」

 と首を傾げる。
 するとアレックスは自信ありげな笑みを浮かべたまま、祐未に持っていた紙袋を手渡した。深く考えず祐未が紙袋の中を覗き込むと、中に入っていたのは赤い衣装を着たクマのぬいぐるみ。思わず取り出してじっくり眺めると、片足に有名チョコレートメイカーのロゴが入っていた。ぬいぐるみの抱えるハート型の箱には、LOVEの文字が印刷されている。祐未は首を傾げた。

「なんだこれ?」

「ホワイトデーのおかえしだよ」

 アレックスがことさら深く微笑む。祐未は首を傾げたまま目を見開いた。

「ホワイトデー?」

「日本ではバレンタインデーのお返しをする日があるそうじゃないか」

「へぇ」

「知らなかったのかい?」

「だって日本人だけど、日本で暮らしてるわけじゃねぇし」

「そうだったね」

 廊下で立ち止まり会話をしながら、祐未がぎゅっと貰ったぬいぐるみを抱きしめた。いままでこういう類のプレゼントは貰ったことがなかったのだろう。戸惑いが顔に表れている。

「ほんとに貰っていいのか? バレンタインデーにわたしたのへんな菓子なのに?」

「私は君から貰えればなんだって嬉しいよ。君も邪魔でなければ受け取ってくれ」

「嬉しいよ、ありがとう」

 祐未が笑う。アレックスはあたりを見回して周りに誰も居ないことを確認すると、素早く少女の耳元に顔を寄せ、小さな声で囁いた。

「バレンタインデーのときのように、邪魔されなくてよかったよ。せめてイベントのときくらい、きちんと愛を囁きたいからね」

 しばらくして、祐未の顔が真っ赤に染まった。 

彼の恋を止める権利が誰にある(from:確かに恋だった)
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