お前しか見えない

街を歩いていて、店のショーウィンドウに目を留めた彼女が、目を輝かせた。

「ねぇちょっと!アレすっごく可愛くない!?」
「あ?」

見ると、視線の先に聳え立つピンヒール。決して派手なデザインではないが、鮮やかな真紅が目を引く。飾り付けの豪華さが、店の推薦具合を示している。相当なオススメ商品のようだ。

「寄っていい?履くだけ!履くだけだから!」
「いいぜ」

興奮そのままに彼女…リリアン・マクニールは店内に入り、早速店員を呼び止めている。その後ろをゆっくりとついていく自分に対し、多くの店員が足を止め、振り向き、目で追っている。この容姿だ。仕方のないことだろう。自分も見惚れた相手からは目を離せなくなってしまうのだから。
そこには、商品である周りの装飾品にも勝る美貌を持った最愛の女がいる。好きな人間は贔屓目で見がちだが、それを抜いても彼女の美貌は世界でも指折りだと思う。世界を知る自分がそう思うのだから間違いないはずだ。そんな女性とこうしていられるのはとても幸せなことだ。

「隆弘ー!見て見て!いいでしょ?」

あの真紅のピンヒールを履いたリリアンが駆け寄ってきた。相当歩きにくそうに見えるが慣れているのか本人は満面の笑顔だ。どうやらぴったりのサイズがあったらしい。
真紅の靴は設えたかのようにリリアンの足に馴染んでいて、彼女のすらりと長く白い足をより美しく見せている。普段は黒などの服が多いから、良い差し色になるだろう。そして。

「近いな」
「あ、確かに。今履いてるのよりちょっと高いのかな」

いつもより少し近くに見える顔は、とても美しく、愛おしかった。いつもしている動作も、今日はちょっとやりやすく。

「ちょっ」
「確かに、近ぇな。今日も綺麗だぜ」
「やめてよもー。ここお店だよ?」
「買ってやろうか?その靴」
「えっ!?これすっごく高いよ?さっきちらっと値札見たけど0がいくつついてたか…」
「俺が気に入ったんだ。どれ、見せろ。…こんなもんか。いけるぜ」
「マジ…?ホントにいいの…!?」
「俺とデートのときは履いてこいよ」
「もちろん!!」
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LongGoodbye