「ミカゲ君。今日、2月25日は何の日かわかるかい?」
「は?突然なんだよ」

楽しそうに若緑色の双貌を緩ませながらシラヌイはミカゲに問い掛ける。唐突すぎる質問にミカゲは切れ長の桔梗色の目を珍しく瞬かせシラヌイを見るも、彼は相変わら笑みを浮かべたままだ。

「ブラッ!」
「ふふ、君の相棒はちゃんと分かっているようだね」

得意そうに前足をあげてアピールするブラッキーに「マジか」と溢すミカゲ。ポケモンですらわかってるのに人間の俺が分からないってヤバくねえか?と内心で呟きながら思案し、答えを探していく。

「…2月25日…確か1848年にカロスで七月王政を倒した二月革命によって第二共和政が開始された日だったな」
「そういう歴史方面のことを言っているわけではなくてだね?というかそもそもそんなことをブラッキーが知っているはずがないじゃないか」
「グレゴリオ暦で年始から56日目だな」
「いやだからそういうことではなくてだね?」

聡明なのだが反対に自分のことには無頓着というか疎いというか。ミカゲのブラッキーも呆れからか主人にじとりとした視線を送っている。

「君に深く関係する日付だよ」とシラヌイにヒントを出され、ミカゲは今一度考えを巡らせる。

2月25日。自分に深く関係するこの日付───…

「───…あ、」
「ふふ、ようやく気付いたかい?今日、2月25日は君が生を受けた日だよ。おめでとう」
「…この年で誕生日なんか祝われてもな」
「おや、そうかい?私は自身が生まれた日を祝われたら心が踊るがね」
「…あの組織で手を汚してきた俺の出生なんてめでたくもなんでもねえよ」

切れ長の桔梗色の目がそっと伏せられる。裏社会の組織のアジトで生を受けたため、自分の意思関係なく一員にならざるをえなかった。

父親からの暴力から逃れるために、自身の手持ちを守るために。数々の小さな命を奪ってきたのだ。

自分が生まれてこなければ、命を奪われなくてもすんだポケモン達。

命を奪った自分が。生まれてこなければよかった自分が。

───…そんな自分は、決して祝福されるべき存在ではない。

「…だが、君はそうせざるを得ない環境にいた。ミカゲ君。君がそう思っていなくとも、私にとっては友人の誕生日というめでたい日だ。一年に一度しかないこのかけがえのない日を、どうか祝わせておくれ」
「シラヌイさんがあそこまで言ってるのにいつまでも辛気くさい顔してるんじゃねえよつり目」

夕暮れのようなもの悲しさを感じる雰囲気を引き裂くように突如後ろから手厳しい言葉と共にミカゲの足に蹴りを入れられる。

誰が、なんてのは振り向かなくともわかる。真っ白な髪と肌、女性のような綺麗な顔立ち。普段とは打って変わり眉をつり上げており、更には腕組みをしふんすと鼻を鳴らしている。

「この女顔…!」
「おや、ツバキ君」
「ミカちゃん、今日誕生日なんやって?おめでとさん〜」

シラヌイにはにこりと愛想よく笑みを浮かべるが、ミカゲにはふんっとそっぽを向くツバキ。そのツバキの後ろからひょっこりとカグヤが顔を覗かせる。

「あんさんの誕生日さかい、好きな物なんでも用意したるで〜」
「ガキじゃねえんだし別にいらね「じゃあ俺お寿司が食べたいです!回らないやつ!ミカゲのお金で」
「ちょっと待て」
「ええなあ、お寿司。いやあミカちゃんにご馳走になるの悪いなあ〜」
「奢るなんて一言も言ってねえんだが」
「ミカゲだから別に気にしなくていいんですよ。シラヌイさんも行きますよね?」
「いやだからなんで俺が奢る流れなんだ?」
「ふふ、勿論。さそがし賑やかな夕餉になりそうで楽しみだ」

ミカゲは顔をひきつらせ恨めしげにツバキに視線を向けるもどこ吹く風だ。花葉色の瞳は煌々とし、高く結わえた雪白色の髪を楽しげに揺らしているツバキにミカゲは諦めたように息を吐く。

「おや、ため息をつくと幸せが逃げてしまうよ」
「あの女顔のせいで現在進行形だけどな。つうかシラヌイ、お前も賛同するなよ」
「ふふ、夕餉が偶々寿司になっただけで私は君の生まれた日を友人達と一緒に祝いたいだけさ」
「…胡散くせー…」

微笑するシラヌイにミカゲは訝しげに見るも直ぐにふ、と口元を緩め楽しげな表情に変わる。

自身の生まれた日など、一年の内の何の変哲もない一日。それが少しだけ特別な日になったのは、他でもないこの三人の友人がいるからなのだ。



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