カチ、と秒針を刻む音に時計を見上げればもうこんな時間かと読んでいた台本をスイはぱたりと閉じる。一度台本を読みはじめれれば長い時間集中し、話し掛けられても気付かない。それはスイの長所でも短所でもあると、いつだったか幼馴染は言っていたけどその通りだ。

すっかり冷め切ったコーヒーで喉を潤し、視線をカミツレに向ければ顔を俯かせている。まさか具合でも悪いんじゃ、と心配になったがなんてことはない、小さく寝息を立てているだけだ。ほっと息を吐き、側にあった自分の上着を彼女にかけてやる。

幼馴染とはいえ仮にも男と女、しかも二人だけの空間に無防備に寝ているカミツレの姿にスイは心配になる。

幼馴染故の安心感と信頼か、はたまた単に自分は男としてみられていないだけか。

後者だったら正直立ち直れないとスイはため息をつく。さすがにそれはないと思うが、可能性を全く否定出来ないところが恐ろしい。

カチ、カチと時計の針が規則的に動いている音とカミツレの小さな寝息しか聞こえない。

「…俺は、ずっと一緒にいられるならどんな形でもいいんだ」

ずっと一緒なんて、もう子供ではないのだから叶わないことなんてわかっている。
彼女に想いを寄せていても、彼女は自分に幼馴染以上の気持ちはないことなんて知っている。

恋人同士ではなく、幼馴染として側にいられたらそれでいい。

けれど、彼女が自分ではない誰かと共に人生を歩むことがきっとそう遠くない未来に訪れるだろう。

そうしたらもう幼馴染としても隣にいられないな、とスイは頬杖をつきながらぼんやり考え、そっと目を伏せる。

だからどうかそれまでは、側に。



スイからカミツレの愛の言葉:時計が響く部屋で、囁くように「形なんて何でもいいから、ずっと一緒にいたいんだ」

title→桐


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