12月中旬の寒さが厳しい空の下、自然に囲まれ閑散とした町並みが広がるトキワシティを青年は懐かしそうに目を細める。

色素が欠如している青年の髪と肌はどこまでも白い。傍にいる、一番のパートナーであるヘルガーに青年は行こうか、と声を掛けた。

青年が辿り着いた先は霊園だった。一人と一匹はある墓の前で歩みを止め、青年は目を閉じて手を合わせる。ヘルガーはそんな主人を黙って見つめ、しばし青年の伏せていた瞼から花葉色の瞳がゆっくりと開く。

「…久しぶり、じいちゃん」

墓の下に眠る、自身を育ててくれた翁に青年ーーーツバキは少しだけ微笑む。

「俺、今日でまた一つ年を重ねたよ」

当然ながら返ってくる声はない。まるで世界がここだけ切り取られたように音もなく、静けさだけが支配している。

『私とツバキが出逢ったこの日を、ツバキの誕生日にしようか』

戸籍がない自分にとって、わかるはずもない生まれた日などどうでもよかった。けれど、優しく笑い、皺が深く刻まれた大きな手で撫でられながら告げられた提案にどうしようもなく込み上げ、泣きそうになったことを懐古する。

誕生日だと決めた日には毎年必ず祝ってくれ、二人で普段より豪華な食事をし、プレゼントをもらって無邪気に笑う。ツバキは懐かしげにふ、と口元を緩めた。

「じいちゃんがこの日に俺を拾ってくれたから、俺は今もこうして生きているんだよ」

命の灯火が消えかかる寸前に、初めて差し伸べられた温かい手は一生忘れることはない。

「次は父の日に来るよ。じゃあね、じいちゃん」

ツバキは小さく微笑み、寒空の下をヘルガーと共に歩き出す。

墓に添えるには相応しくない椿の花が師走の風に吹かれ、まるで青年達を見送るように揺れた。



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