「おめでとう」

「は?」

診断室にはパチパチと看護師さんと目の前の男がニコニコと嬉しそうに笑いながら、キーボードをたたいている。
…いやいや待って!!!

「ちょサクラ兄さん!?どういうこと!!!??」
「どういうことって、妊娠おめでとうってことだよ」

「嘘!!」「嘘じゃないよ」というやり取りを何度しただろう。
とうとうサクラ兄さんがもう一度といってエコーでその様子を見せてくれた。

「はーあんな小さかった君が母親か…そりゃ俺も年を取るよね」
「いやいやいやいやまじ?」
「本気と書いてマジと読む、それで父親は誰だい?」

父親…と聞いて一人の男が頭に浮かぶ。
確かに私は三か月前彼と一回だけ寝た。あの日はとある大仕事を終え、お互い普段とは比べらないほど興奮しており、その興奮を治めるため寝てしまった…というか私はその時純潔を彼に捧げてしまった。
男の人と寝たのはそれだけだったから絶対その日だ。いやいやできるのはいいんだよ?少なからず彼に私は好意を持っていたのだから。
まだ平べったいお腹を撫でながらこれからのことを考えた時重大なことに気づいた。
私と彼…否、主に彼は人殺しの集団を倒すため日々奮闘している。そんな時子供ができたなぞ報告してみろ…おろせと言われるか、子供の存在に人殺し集団が気づいてこの子を殺すかもしれない…。

簡単に想像できる未来を思いつけばサーと全身から血が引くような音がする。
パソコンを見ていたサクラ兄さんが何も答えない私に気づいたようで、こちらを見てぎょっとする。

「どどどどどうしよう!」
「な、なに?」

「逃げないと!!!!」

今思えば、私はこの時相当パニックに陥っていたのだろう。
そのため、そんなことを思わず口に出してしまったが、私だって優秀な捜査官、あの優秀な彼から逃げる算段を頭の隅で考えていた。

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というちょっと主人公がおバカな小説です。
主人公視点って難しいですね…。