ファントムハイヴ邸。
ファントムハイヴ家長女のマリアは先日、ロンドンのファントムハイヴの屋敷に留学から戻ってきた。
「はぁ…」
マリアはため息を深くついた。
学校を飛び級をし、若くして医師免許を取得し、まもなく念願の医者になれる。
大好きなマダムレッド…アン叔母様に近付ける。
それなのに…
憂鬱な原因。
マリアのベッドにドレスが数着放り出されていた。
アメリカに留学した2年で身長が20cm伸びて体つきが変わってしまった。
明日には18歳になる。
私はもうオトナだ。
コンコン
ドアをノックする音。
「はい」
「失礼致します。紅茶をお持ち致しました」
真っ黒な執事、セバスチャン。
カチャン
紅茶とスコーンをテーブルに置く。
「どうされたのですか?浮かない顔をされて」
セバスチャンが言った。
「私…背が伸びたじゃない。マダムレッドのドレスだってそのまま着られる…」
マリアの憂鬱な顔にセバスチャンは首をかしげ言う。
「そうですね。そのまま着られるのはマリア様がずっとお望みでしたのでは?」
「アリススタイル…可愛い格好をもっと楽しんでおくべきだったわ…もう体型的にも年齢的にも着られない」
紅茶に憂鬱な自分の顔が映る。
「念願のお医者様になれたけど、自信がない…」
いつもは堂々とし、自信満々なマリアがネガティブな事ばかり言うのでセバスチャンは驚く。
マリアはどんどんセバスチャンに話す。
「私はこれでいいのかなって思う…何でだろう。嬉しくない…小さい時からの夢だったのよ。それなのに…ちゃんとできるかなって不安で不安で…それにね、背も体型も望んでた通りになったのに舞踏会で私を変な目で見てる人が多い…ジロジロ見られて…怖かった」
「それにね」
…………
「どうなさいました?」
「私、もう子供の産める身体になったのよ」
「…おめでとうございます」
セバスチャンはマリアが賢く教養もあり常識もあるのに何故自分などにデリケートな身体の話をするのか理解ができなかったが、とりあえず言った。
「セバスチャンの子供だって産めるのよ!」
いきなりマリアは何を言い出すのかとセバスチャンは目が点になる。
顔を真っ赤にし今にも泣き出しそうなマリアは自室から飛び出そうとするがセバスチャンは手を握り、離さない。
「最後まで、お聞かせ下さい」
今度はしおらしく再び椅子にマリアは座る。
「紅茶が冷めたので淹れ直し致します」
カチャン
「カモミールとハチミツの紅茶でございます」
ゆっくりマリアはティーカップに口をつけた。
少し飲むとティーカップをテーブルに置き、深呼吸をし、再び話す。
「…何だか環境も変わるし体型も変わるし他も色々一気に変わって落ち着かないのよね。緊張しちゃって。私らしくないわよね」
クスクス、とセバスチャンが笑う。
「マリア様は本当に面白いですね。色々な表情をしますし見ていて飽きません。それにいきなり何を言うのかと思えば」
カーっとマリアの顔が真っ赤になる。
「ハッキリ言うけど!やっぱりセバスチャンじゃないと嫌!友達の結婚式を見て私も結婚したいなって思って、想像したらいつも隣に貴方が居るんですもの、やっぱり好きよ!」
全て分かっているセバスチャン。
「少し早いですが」
トレーに乗っている、薔薇の包装紙に包まれている小さな箱をマリアに渡す。
「僭越ながら私からの誕生日プレゼントでございます」
「うそ…開けてもいい?」
「どうぞ」
ガサガサと包装紙を外し、箱を開けると、ベルベットのチョーカーが入って居た。
黒のベルベットに黒い宝石と赤い薔薇がモチーフの宝石が飾られている。
まるでセバスチャンとマリアのようだ。
目をキラキラと輝かせるマリア
「素敵…!」
「付けさせていただいてもよろしいですか?」
頷くマリア。
「ねぇ、これはどこで買ったの?」
「どこにも御座いませんよ。世界に一つしかないものです」
「セバスチャンが作ってくれたの?」
「なかなかマリア様のイメージに合うものがなく作らせていただきました」
鏡の前に飛び込みチョーカーを見るマリア
「綺麗!」
「いつものマリア様らしく、難しい事を楽しむ位の気持ちでいらしたらいいのでは?マリア様なら優秀な医師になれますよ。」
「…セバスチャン」
マリアを後ろを振り返る。
睫毛を伏せて少し笑うセバスチャン。
睫毛を伏せて笑う私の好きなセバスチャン。
「私は背が高い方ですし、私の隣を歩くのでしたら長身のレディがよろしいかと」
「結婚式は純白より真っ赤なドレスですかねぇ…貴女は個性的がお好きですし。グレルさんと好みが同じで困りますが」
「子供も私に似た子がいいですね。マリア様に似たらとても大変でしょうから」
安心してしまう。
私の中身を見てくれる貴方に。
弱い私も貴方にならさらけ出せる。
「ねぇ、セバスチャン、私の事ずっと見てくれる?」
「えぇ。どこまでも。見た目は美しくても中身はガサツで怒りっぽくて見栄っ張りですぐ泣くし、他の紳士には扱えません。マリア様の隣と言ったら私しか居ないでしょう」
嫌味を交えて笑う。