過去と忍びと今とヒーロー
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  • 四十四話


    一番近くのデパートにつけば、まず最初に向かったのは布団売り場。そこでまずまずな布団を一式買い、宅配で家に届けてもらえるようにする。
    次は調理器具。とりあえず一式揃え、これまた宅配。そしてようやく食材売り場に向かった。

    「布団と調理器具はとりあえず確保したから、後は食材だね」
    「後のものはおいおい買い足しますか?」
    「そうだね。一気に買ってもあれだし、今日のところはもう遅い。明日と今日の分を買って早く帰ろうか」
    「はい」
    「相澤先生は何か嫌いなものや食べられないものとかありますか?」
    「いや、特にはないが……」

    庄左ヱ門と浅間が二人で今後買うものなどを話していると、いきなり蚊帳の外で少しだけ後ろを歩いている相澤に話をふった。
    すっかり二人の勢いに押され流されるままの相澤は、それに少しだけ言い淀みながら答えた。ここで"好きなもの"ではなく"嫌いなものや食べられないもの"を聞くのが浅間らしい。
    ワイワイと仲良く食材を選んでいく二人を見ながら、まあこんなのもいいかと思い始めた相澤だった。

    「こんなものかな……先生、そろそろ帰りましょう」
    「あ?あ、ああ」
    「今日の夕飯はチャーハンですよ」
    「もう遅いので簡単なものです」

    庄左ヱ門を挟んで三人歩く姿は、まるで家族のようだ。なんて。


    「相澤さん、調子に乗らないでください」
    「……なんのことだ」


    ***


    浅間と庄左ヱ門が相澤の家に世話になってか何週間か経った頃。一学期が終わった。

    「じゃあ行ってくるからね。食料と飲み物は買ってあるし足りなかったら買い足して。お金も置いておくし何かあったら連絡してね」

    さすがに二回目。そう出先で駄々をこねなかった浅間だが、いざ玄関を開けて出かけるとなった時に限界がきた。

    「ああやっぱり嫌だ。まだヴィランの脅威が私達から逸れたとは確定していないし、何より庄を一人置いておくのが心配だ。今からでも一緒に行こう。いや私が林間学校を休もう」
    「先輩、大丈夫ですから早く行ってください」

    それを苦笑しながら見ている相澤。庄左ヱ門は抱きついて離れない浅間の頭を撫でながらため息をはいた。

    「誰か先生方が来てくださいますし、僕ひとりではありません。大丈夫ですよ」
    「でも……」
    「携帯は使えるのでしょう?なら毎日電話しますしメールもします。それならいいでしょう」
    「あれからヴィランの接触も何もない。もともと奴らの狙いは浅間だ。黒木の言う通り他のやつも来るし、大丈夫だ」

    相澤と庄左ヱ門の二人がかりで言われ、ようやく庄左ヱ門から離れる浅間。

    「じゃあ………行ってくるね」
    「行ってらっしゃい」

    まだ心配そうな顔をしているが笑顔で出た浅間に、庄左ヱ門もまた笑顔で送り出した。それを見た浅間はようやく少し安心したように一息ついたのだった。


    __________________


    「しかし、あれだけ心配しなくてもいいんじゃないか?」

    歩いていると、ふと相澤が言った言葉に浅間は上にある顔を見る。

    「さっきも言ったように、ヴィランの狙いはお前だ。黒木の所には他の教師も行く。あまり過保護だとお互いに大変じゃないか?」

    その言葉は最もだ。けれど浅間は肯定するわけでも突っぱねるわけでもなく、少し顔を顰めながら前に向き直った。

    「確かにその通りです。ですが……」

    この時代に生まれ落ちてから16年。既に過去の感覚は鈍っている。それでもハッキリと分かるこの感じは、あの頃味わったもの。

    「嫌な予感がします」

    そのどこか焦燥に駆られているような浅間の横顔を見た相澤は、何か安心するようなことを言おうとして、やめた。
    今の浅間には何を言っても意味などないし、恐らく自分の言葉などでは浅間には届かないだろう。
    そう思ったが、意思に反して手は浅間の頭に伸びていた。

    「先生、どうかされましたか?」

    相変わらずの無表情。けれど目は不思議な色をしており、意外に目で多くのものを語るやつだと思う。まだ黒木のように色々な表情を見せてはいないが、それでも目だけでも感情を見せてくれるのは、俺がこいつの内部に入れている証拠なのか。

    何も言わず、ただ頭を撫でる。それを黙って見上げる浅間。はたからみればおかしな光景だろう。それでも、浅間の刺すような空気がなくなったことを確認した相澤は満足そうに腕を下げ歩みを再開する。

    「あの、一体なんだったんでしょう」
    「気にするな」
    「はあ……?」

    後をついて隣に並んだ浅間は不思議そうなままだったが、相澤に話す気がないと判断すればすぐに前を向いてしまう。
    その目が自分から逸らされてしまったことに少しだけ残念に思いながら、相澤も黙って学校に行く道を進んだ。

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