異世界から来た君達


仕方がないから話だけは聞くと言って、彼らをリビングに通した。今私の目の前には眼帯の男。目つきの悪い顔に傷を持った男が座り、その後には彼らよりも若そうな緑の髪を持った男と茶髪の男。そのさらに後ろには一番小さい灰色の髪を持った子を抱っこする赤髪の子が隠れるようにいた。
一番小さい子以外は皆傷あるじゃん。

「で?何がおかしいの」
「俺達はついさっきまで海にいた。なのに気がつけばここにいたんだ」
「待って、待って。海にいた?」

聞き捨てならない言葉につい話を止める。けれど男は頷くだけ。

「海なんてこの辺にないよ……」
「何!?海がない?!」
「車なら行けるだろうけど、すぐ近くにはないかなぁ」
「……二つ目だ。兵庫水軍を知っているか?」
「知らない」

私の言葉に愕然とする男達。けれどこの質問で何が起こっているのか少しだけ分かってきた私は、頭痛がしてきた頭を抑える。

「な、ならドクタケ城は!?タソガレドキ、チャミダレアミタケ!ドクササコ城は!?」
「いやなんできのこの名前?そんな城があった話なんて聞いたことないし、今お城があっても観光地とか重要文化財になっているよ」

驚き、信じられないと言わんばかりに目を見開き固まる男達。すると小さな泣き声が聞こえてきた。その発生源を見ると、赤髪の子に抱っこされていた一番小さな子供だった。

「お、おれたち……もうかえれない、の?」
「重……」

泣く重と呼ばれた子供を、抱いていた赤髪の子が背中を摩ってあやす。それに二人の青年もそれぞれ頭を宥めるように撫でているが、その顔は泣きそうで、目の前の男二人の顔も険しかった。

「つまり、あんたらは海にいた。話を聞く限り今の時代より昔から来て、なおかつそこはこことは違う世界である可能性が高い。ということでいいの?」
「あ、ああ」
「違う世界ってのは…」
「ここじゃ歴史としてドクタケもドクササコもタソガレドキも。そんな城はない。なら平行世界だとでも思った方が辻褄が合うでしょ」
「確かに……」
「海でそのなりだと……海賊とか?」

まあカタギじゃなさそうだけど、まさかそんな訳がないだろうと思いながら冗談交じりで言ってみれば、返ってきたのは肯定の返事。

「……え、嘘でしょ。本当に?」
「兵庫水軍って名前で海の安全を守ったり商船なんかの護衛をしている」
「まあ雇われて戦に出ることもあるし、海賊と言っても間違いじゃねぇな」
「うわぁ……海賊って初めて見たわ」

肘を立ててマジマジと見てみれば、小さな子達はさらに隠れるしその前の二人は居心地が悪そうにしながらも睨みつけてきた。

「で?これからあんたらどうするの?」

しかし私の言葉に固まり、ようやく安定していた重と呼ばれた子供がまた泣き出し、宥める子も泣きそうだ。他の四人も険しい顔で悩んでいるし。

着物がシワになり、手が真っ白になるほど握りしめている拳。

「少し……整理する時間が欲しい」

言われた言葉は妥当なもの。まあいきなり異世界に来たなんてなっても混乱するよね。話の流れで早い段階で飲み込めたのは、きっと私が帰ってくるまでにこの家を見たからだろう。それでも、現実として突きつけられればこれからのことを不安になる。

「ん。分かった。なら今日はここ使ってよ」

立ち上がりリビングの隣の部屋を開ければ、そこは和室になっていた。
少しものがあって散らかっているが、まあ大丈夫だろう。押し入れの中から余分にあるタオルケットを出し手渡す。

「え、」
「いて…いいのか?」
「整理する時間が欲しいんでしょ?ならいったんゆっくり休んでから考えた方がいい。家もアテもない奴らを放り出すほど人でなしじゃないつもりだよ」

何か言いたそうにはしていたが、有無を言わさず部屋に押し込む。
喉が渇いていては仕方がないと何本かペットボトルの水を渡したが、開け方が分からなそうなのでそれも教える。
少し雑になってしまったがこちらも疲れているのだ。そこにこんな事情なんて持ち込まれても頭が働かない。とにかく私は早く休みたいんだ。


シャワーだけ浴びて、よほど疲れていたのかベッドに入った瞬間に寝入ってしまった。

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