絶滅危惧種系女子?


「昨日はキーマカレー……」
「一昨日はポークカレーですね」
「そのまた前はスープカレー……ああああ! ダメだ考えただけで頭がおかしくなるっ! 今日こそは、俺と千夜ちゃんで夕飯作るぞ!」

綴さんが、おたまを握りしめて叫んだ。昨日までなら半笑いで「またまた〜」とか茶化すことができたのだけれど、今日の私は真顔で「うっす!」と体育会系並みの返事しかできなかった。

そう、あの美人で優しくて気配りもできる、最高の監督さんの唯一の欠点――

それは、食事がカレーしか出ないことだったのだ!

「夕飯は監督さんが作りたいっておっしゃってたから、とりあえずお願いしてたんですけど……まさかここまでとは……!」
「おいダメだろ千夜ちゃん。そこは『二日に一度くらいは、私に任せてください!』って宣言すべきところだった!」
「あはは〜……と、とりあえず、まずは冷蔵庫を見てみましょうよ。何が入ってるかな」

力説している綴さんをしり目に、冷蔵庫を御開帳。「うわ!?」と私が叫んだのを見て、彼はまた悟ったような顔をして、私の肩をぽん……と力なくたたいた。

「人参、玉ねぎ、じゃがいも、牛肉……か、カレーの材料しかない……」
「夏になったら、夏カレーの具材も増えるさきっと……」
「夏までこの四種で食卓が回る――!?」

嫌すぎる。

「嫌すぎるな」

あっ、心の中で綴さんと台詞が被った。
なんて勝手にシンクロ率に感動している私をよそに、綴さんは上の段も開け始めた。

「なるほど……上の方は、さすがに卵とかチーズとか、乳製品くらいはある感じか。あと個人が勝手に買ったプリンとか」
「至さんの買ったファストフード、こんなところに詰め込まれてるんですね」

所せましと並ぶハンバーガー。手を汚さないというルールを守った食材(?)だけが、至さんに選別されるという訳だ。なにこの不健康な絵面。

「チンして食べるとか言ってたなぁ。あの人、栄養バランス悪すぎだろ……」
「ハンバーガーに関しては、ちょっと考えないといけませんね。まぁそれは追々考えるとして」

とりあえず、冷蔵庫から例の四種類の具材を取り出し、キッチンに並べる。

「カレーはたぶん、洋食分類ですよね」
「だな。となると、俺たちは洋食作るのは避けたいな」
「じゃあ、和風にしましょう! まずこの四種で、肉じゃがが作れますよ」
「あー確かに。あと、みそ汁とか」
「良いですね! この前のスープカレー、確かしめじ入ってませんでした?」
「あったあった。冷蔵庫に埋もれてんのかも」
「じゃあしめじも入れたら、具材それっぽくなるかも」
「おっ、良いな。ああ、久しぶりにカレー以外の料理にありつける……!」
「監督さんのカレー、美味しいんですけどね」
「いくら絶品でも、毎日食べれるのは真澄くらいだよ」

その後、綴さんと話した結果、今夜のメニューは肉じゃが、みそ汁、卵焼き(プレーンとチーズ入りの二種類)に決定した。

和って素晴らしい……! と思える程度には、このメニューが食べたくて仕方なくなってくるのだから不思議だ。恐るべし、カレー責め。

「いやぁ、千夜ちゃんが家庭的で助かったわ……ついこの間まで実家暮らしで、普通にお母さんが飯作ってくれてたんだよな?」
「そうですね。まぁ、お弁当作ったりはしてたんで」
「自分のを!? すっごいな、今時ない絶滅危惧種な家庭系女子……」

そこまで!? お弁当を作るのは毎日でもないから、大したことはないんだけども。必要に駆られて仕方なく、といった感じで、進んでしたかったわけではないです。

とはいえ、そういう嫌々やったことに現在助けられているわけで。世の中上手く回るものだ。


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