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歓迎



歌仙と清光達により次々と運ばれてくる料理達で、食卓は色とりどりの如何にも美味しそうな食事で揃い、香しい匂いが空腹を刺激した。

実は、先程別の用で席を外した清光は、厨当番であったが為に席を外したのだった。

そして、今も、現在進行形で厨で仕事に勤しんでいるのであった。


『ふわぁ〜…っ、どれも美味しそう…!』
「二日間何も口にしていない主さんには、ちょっと重いだろうから、別に用意してありますからね!」
『え…っ!私、これ食べられないの…!?正に据え膳食せず…っ!?』
「まぁ、身体を労るなら、当然の事だわな。二日も何も腹に入れてないとなると、いきなり消化に悪い脂っこいモンとか食ったら、胃に悪い。大将には別に、大将専用の食事を用意してあっから、そっちを食ってくれ。」
『にゃ、にゃんと…!別に作ってくれてるとな…?そ、それって別手間じゃあ……っ。』
「主さんの事を気遣っての手間ですから、苦じゃないですよ。それよりも…、本当に、無事に目が覚められて良かったです…っ。」


そう言うのは、歌仙や清光と同じく厨当番だった、堀川国広である。

後に聞いたが、どうも起き抜けに着ていた浴衣は、彼の物だったらしい。

なるほど、彼の物なら頷ける。

彼も、先の戦闘で重傷に陥っていたのだが、眠っている二日の間に、手入れ部屋での治療を受けたようで、今やすっかり元気になっていた。

良かった良かった。

食卓が揃っていく内に集まってきた刀剣達で、部屋はわいわいと賑やかになっていた。

故に、顔を見合わせる事で、初顔見せの者やそうでない者も含めて、初めての会話が成り立つ。


「おおっ、目が覚めたんか…!身体は、もうええんか?」
「おはよう、主。気分はどうかな?」
「漸くお目覚めか…。随分と寝坊助なんだな、アンタ。」


此方は、初めて会話する、残りの初期刀メンバーだ。

一人、辛辣な言葉を浴びせてきたが、視線は気遣わしげにチラチラと向けられるので、本心ではないのだろう事が解る。

本当、素直じゃないなぁ…。


「…おい。」
『ふわ…っ?あ。えっと…、大倶利伽羅…だよね?』
「嗚呼。俺が、大倶利伽羅だ。二日も寝続けていたが…、もう動いていて良いのか?まだ寝ていた方が良いんじゃないのか。」
『いや、これ以上寝てたら、逆に身体に悪いよ…!それに、確かに身体は物凄く怠くてキツいけど、ただそれだけだから、大した事ないよ。』
「…そうか。無理はするなよ。」
『うん、心配してくれてありがとう。』


短い会話を済ませると、さっさか自分の席へと座りに行く大倶利伽羅。

もっと言葉少なな刀だと思っていたが、意外と饒舌なのかもしれない。

これまた新たな発見だと、目をぱちくりさせていたら、目の前の視界が真っ白になった。

え。何、謎現象?


「よぉ、主…っ!目が覚めたんだってな?この本丸と伽羅坊に、宗三を含めた皆を救ってくれて、感謝するぜ。来て早々大変だったろう…?ありがとな。」


真っ白の現象は、鶴丸国永の服によるものだった。

距離感が近過ぎて、頭が処理をしきれなかったみたいだ。

まぁ、二日も寝っ放しなら、ボケていても仕方がないだろう。

早く飯食って、栄養補給させよう。

そうすれば、ボケた頭も覚醒するだろう。

そう思い、大人しく自分専用のご飯が運ばれてくるのを待つ律子。

すれば、また一振りと言葉を交わしに来た刀が、隣にゆったりと座った。


「思ったよりも、元気そうで何よりだ。一時は、どうなる事かと思ったからね。一応、動けるまで回復して良かったよ。」
『石切丸…!』
「ふふ…っ。改めまして、私は、石切丸と言う。神社などの神聖なる場所に奉られていた為、厄を祓う力を持つ。故に、私は大太刀であり、御神刀だ。何となくは解っていたけれど、やはり、君はこの本丸の新しい主だったんだね。穢れの根源を祓ってくれて、ありがとう。」


ゆっくりとした口調で話すのは、この本丸に来てすぐの頃に言葉を交わした二振りの内の一振り、石切丸だった。

彼から溢れ出る清らかな神気が、穢れと疲労に侵されていた身に触れ、穢れが洗い流されるようだ。

気持ち程楽になった事で、幾分残っていた緊張が解れ、自然と笑顔になる。


『私は、栗原。審神者名は、猫丸です。此方こそ、あの時、協力してくれてありがとう。時間が無くて、何の説明も出来なかったのに、察してもらえたから、凄く助かった。』
「何て事はないよ。当然の事をしたまでさ。」
『それでも、一言御礼を言いたかったんだ。本当に、ありがとう。』
「今代の主は、心優しいね…。どうか、ゆっくり養生してくれ。」

緩やかに目を細めると、ゆっくりと腰を上げた彼は、大倶利伽羅と同じように己の自席へと着いた。

そうやって、この部屋に来てから、入れ替わり立ち替わり来る刀達を相手していると、痺れを切らしたかのように現れた清光が、彼女用の食事を持って、皆に声を上げた。


「こぉら…っ!皆寄って集ってたら、主ご飯食べれないでしょ…っ!?ほら、散った散った…!!」


シッシッ、と野良猫でも追い払うように皆を追いやると、ちゃっかり隣をキープし、横隣の席をゲットする清光…抜け目無い。


「全く…っ、病み上がりなんだから、気遣ってそっとしておくって事考えないかなぁ…っ!話すだけでも体力使っちゃうんだから、皆寄って集って話しかけたら、疲れちゃうでしょ…っ!」
『心配してくれてありがとう、清光。確かに、たくさん会話するのはしんどいけど、でも、皆心配してくれてたんだし、まともに顔を合わせるのは初めてになるから、仕方ないよ。』


ぶすりと文句を言いつつ、律子のお粥を器に注ぐ清光。

本丸の初期刀かつ最も古株な刀だからか、何かと世話好きな彼は、気遣い上手でもある。


「そうやって無理するから、倒れちゃうんだよ、主。」
『…!』


彼から面と向かって“主”と呼ばれたのは初めてで、思わず喜色の表情を見せる律子。

向かいの席に座る長谷部が、「おい、加州…っ!主に対し、なんて口の聞き方だ…!!」と怒るが、無視される。


「また倒れられても困るから、無理だけはしないでよねっ。身体、まだ完全に回復しきってないんだから。」
『うん。あんまりにもキツくなったら、ちゃんと伝えるね。』
「解ればそれで良いの。さっ、冷めない内に食べよう?」


彼が運んできてくれた、彼女専用の食事という物は、体調が悪くなった時の定番の消化に良いお粥だった。

おかわりを自由に出来るよう、鍋ごと持ってきてくれたようだ。

彼の一声で、皆は「頂きます。」と声を揃えて手を合わせる。

そして、穏やかに始まる昼餉。

律子にとっては、朝餉兼昼餉だが。

二日振りに口にした食事は、とても優しい味がして、思わず顔が綻ぶのであった。


「あるじさまっ!ごはんはおいしいですか?」


身体に染み渡るような味に、しっかりと噛み締めていると、清光とは反対の隣の席をキープした今剣が、ワクワクとした様子で問うてきた。


『ん…っ!凄く美味しいよ…!』
「お口にあったようで、何よりだね。お粥は、加州が担当したんだよ?」
「ちょっと…っ!言わなくても良い事伝えないでよ…っ。」
「あっ、主さん!おかずの方も食べてみてください!その煮物、僕が作ったんです…!」
『むぐ…っ。うんっ、煮物も優しい味で、美味しいよ!』


もぐもぐと美味しそうに食べる彼女を見て、厨当番の三振りは嬉しそうに微笑む。

加えて、元気になった彼女の姿を見れて、内心ホッと安堵する他の者達。

其処へ、ポフンッ、と現れた管狐。


「―嗚呼、良かった…っ!栗原様、お気付きになられたんですね…!!」


空中でクルリと一回転して着地した管狐は、開口一番にそう述べた。

実に、二日振りに見る姿だ。


『こんのすけ…?』
「はい…っ!私が、この本丸担当だった、管狐のこんのすけでございます…っ!ご無事で、本当に安心しましたよぅ…っ!!」
『えっ、ちょ…っ!泣かないで、こんのすけ…!!』
「もう…っ、倒れられた時はどうなる事かと思いましたぁ〜っ!!」
『お、落ち着いて…!』
「うぅ…っ、すみません、取り乱してしまって…っ。栗原様のご無事な姿を見れたと解ったら、安心してしまって…つい。これで、私は無事に、役目を果たせそうです。」
『え…?どういう事…?』


意味深な物言いに、眉を潜めた律子。

黙って話を聞いていた刀剣男士達も、皆一斉に視線を向けた。


「私、こんのすけは、本日を持って、お役御免と相成りました。よって、現在の担当場から外され、別の役目を担う担当場へと異動致します。故に、この本丸の経緯を説明した後、後任の者と引き継ぎを行います。栗原様とこうしてお逢い出来るのも、これが最後となるでしょう。」
『は………?嘘、だろ…?』


唐突に告げられた事実だった。


執筆日:2017.10.21