絶対領域



それは、とある日の組織の日常である。

任務が終わり、ホテルの部屋にてのんびりと過ごす二人。

任務時の黒い服から私服へと着替えたキティは、珍しくも膝丈のワンピース。

一方、彼女と同じく私服に着替えたバーボンであるが、此方はあまり普段と変わりない服装であった。


「…珍しいですね。貴女がワンピースを着るなんて…。どうしたんですか?偶には、女性らしくする気にでもなったんですか?」
『いや〜?これ、この間、ベル姐とショッピングに行った時にプレゼントされた物なの。』
「あぁ…ベルモットですか。」
『うん。せっかく貰った物なのに、一度も着ないのは勿体無いと思って、持ってきてたの。』


そう言って、彼女はファッション雑誌を手に取るとベッドに寝転んだ。

ワンピースの裾が若干ずり上がるが、気にせずうつ伏せになって枕元で肘を付き、雑誌を読み始める。


「あのー…裾がずり上がって見えそうになってるので、直してもらえませんかね?」
『ん…?あぁ、ごめん。』
「僕と一緒の部屋に居るなら、それくらい気を付けてくださると嬉しいのですが…。」
『んー。気を付けるー…。』


返事をするものの、此方を見向きもせず気の抜けた声を返すキティ。

一応、言われた通り上がりかけていた裾は直してくれたが…返事の仕様に、本当に分かっているのかどうかは不明である。

恐らく、あまり理解はしていないだろう。

彼からしてみては、男の自分が居るのだから身嗜みには配慮して欲しいところなのだが…そのような事、彼女は露知らず。

意識していないところで煽られては堪ったものじゃないので、一先ず注意はしておき、自身も寛ぐ為にソファーへ腰掛け、次の予定を確認した。


…数分経っただろうか。

スケジュールを確認し終えた後、トイレに席を立って部屋へ戻ってきたら。

身体の位置を変えたのか、再びワンピースの裾がずり上がり、太股が晒されていた。

何という無防備な格好をしているんだ、と呆れたバーボンは、思わず目を覆い、呆れの溜め息を漏らした。

このまま何もしないままでは自分の精神上よろしくないので、再度彼女へと注意の声をかけた。


「キティ…。またワンピースの裾、上がってますよ。」
『ぁ…?あー、有難う。』
「全く…注意する僕の身にもなってくださいね?目の遣り場に困る…。」


はぁ…、と盛大な溜め息を吐くも、彼女は気にもかけない。

お陰で、視線は自然と彼女の脚へと向いてしまい、気が気でない。

意識を変えようと頭を振り、自身も別のベッドへ寝転ぶと、テレビを点けて適当なチャンネルを選び、其方に意識を向けた。

すると、気付かぬ間に自身のすぐ側まで移動してきていたのか、未だ雑誌を捲りながら読む彼女が居た。

そして、その格好は先程よりも無防備で…。

大胆にも、下着がギリギリ見えるか見えないかの位置にまで裾がずり上がっていた。

おまけに、彼女はその状態に気付かず、足の位置を置き変える。

流石に、これは理性も制御を越えてしまい、バーボンは無言で彼女の裾の中に手を這わせた。

突如、太股に走った違和感に、彼女は雑誌から視線を外し、隣を見た。


『ちょ…っ!?バーボン、アンタ何やってんの!?』
「何って…貴女の無防備にも晒された太股を弄ってるだけですが?」
『いやいや、何平然と答えてんだよ!気持ち悪いわ!!早よこの手退けろや!!』
「嫌です。」
『はぁ!?』


すんなり引き下がってくれるかと思いきや、何の悪ふざけだ。

あろう事か、太股の内側に滑り込んできた手は上へと這い上がってきており。

慌てて彼の手を掴み、ワンピースの裾を下げるが、時既に遅し。

完全にヤル気になってしまった彼が真上に覆い被さってきた。


「誘ってきた貴女が悪いんです。何度忠告しても太股を晒け出す、貴女のね…?」
『ま…っ!?待て!早まるな!!一旦落ち着こう!?な…っ!?』
「もう無理です。覚悟してください?」
『ノォーッ!!』


その一件があった以降…。

彼女は、二度とワンピースを着る事は無くなったらしい。


「ねぇ、キティ…。貴女、何であれ以降、ワンピースとかスカート着ないの…?せっかく似合ってて可愛かったのに。」
『絶対着ないっ!!』
「(これは、バーボンと何かあったわね…。)」


静かに察するベルモットであった。


執筆日:2016.08.02
加筆修正日:2020.05.19

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