1.隔たり
私はいたって普通のOL。
結婚適齢期間近な妙齢の、短大卒業して、入社6年目の、
自宅住まいで通勤に一時間かけて、お弁当持参して毎日出社している、いたって普通のOL。
家族は私と母、二人きり。兄弟もいない、父は8年前に病気で他界。
母は地元の私立病院の看護師長を勤めていて、不定期な仕事柄家に居る事も少なく顔を合わせる事も殆ど無い。
趣味と言えるものも無い。
お酒もたしなむ程度でタバコは吸わない。
服だって流行を追わずベーシックなものを選ぶし、コスメだって必要最低限。
特に秀でた処の無い、いたって普通のOL。
彼氏はこれまでに何人かいた事はあったけれど、大した楽しみも知らない、そんな女に嫌気がさして“つまらない奴”と、大外浮気されて終わる。
地味で目立ちたくない、普通をこよなく愛する、普通ーーーのOL。
そんな私が一つだけ、普通じゃない事がある。
それは
大学生のセフレが居ること…。
セフレ…
彼をそう呼んで、そう位置づけて良いものか…。
でも体の関係しかない。
彼は私の家の向かいに住む大学生。
幼馴染とかそういう訳でもなく、ただ私と彼の親同士が仲が良い、というだけ。
特に私達には深い交流も無く、挨拶と、季節や天気の話をする程度。
5つ以上も歳が離れていているのだから、一緒に遊んだ思い出すらない。
なのに、なんで私は彼とこんな事をしてるんだろう…。
彼とこうなるきっかけは、なんだっただろうか。
たまに考える。
そんな事をしても無駄なのはわかっている。
遡って、そして結論はいつもあの日、と決まっている。
彼の母と私の母は同じ職場。
そして彼の母は、私の父の死後、母が仕事中で不在で私が家に一人で居ることをひどく心配してくれている。
たしかその日もそうだった。
いつものように“多目に作ったから”煮物を届けににうちに来て…。
ただいつもと違ったのは、お裾分けを持って来たのが彼の母親ではなく、
他ならない彼本人が持ってきたのだ。
その日は彼の母も夜勤で、“母から頼まれた”と家を訪れてきて私に“多目に作ったから、”と彼の母と同じような常套句を言うもんだから、少し驚いて、少し笑って。
知らない顔じゃないし、私的には好青年のイメージもあって完全に油断をしていた。
そしてその日は、私の母からも彼の母に渡す物を頼まれていて、本当に重なった偶然から、私は彼を家に招き入れた。
彼から渡された物をダイニングテーブルに置いて、母に頼まれた物を手に取ろうと視線を余所に向けた途端、彼が私のすぐ前まで迫ってきて、驚いている間に頬に手を伸ばされ、そしてそのままそっとキスをされて。
驚いたけど、白い頬を少し赤らめ、瞳を伏せて私を包む様に抱き締め、慈しむ様に唇に、頬に口付けを落とし続ける彼に、どうしてか私は抗う事が出来なくなった。
私は私の心に従って、そして流される事を甘んじて受け入れた私の腕は、自然に彼の背に回って行った。
そんな私達が身体の関係へと発展するのに、大して時間はかからなくて…、
だけど疑問は消えないまま、ずるずると関係を続けて、もう一年以上…。
この関係が始まった時、確か彼はまだ高校生だった。
二駅離れた郊外のラブホ。
私達はいつもそこで身体を重ねる。
「あ……、んぁ…」
「ユイ……」
「ぁッ、あ……!」
「かんがえ…ごと、か……?」
「…!ちが…ッあ、あ!」
「うそを、つくな…ッ」
「!、…ゃッ…あ、あああ……ッ」
彼に揺さぶられながら、いつもどこか頭の隅で、“どうして、私なんだろう”、という疑問を頭の中で巡らせる。
そういう私の、“心ここに在らず”な所に微塵でも気付くと、打ち付けを強め、まるでお仕置きのように私の唇を唇で塞ぎ、意識を無理矢理彼の方に向かせられ
夢中にさせられてしまう。
いつも意地悪して私の弱い一点を逸らして責め、強請らせて優越感に浸って私を抱くのに、心を余所に向けていれば、途端に今度は弱いそこばかりを突き上げられる。
突き上げに合わせて揺れる胸を揉みしだきながら、その先を舌と唇で執拗に転がす。
胸の先に与えられた、熱く滑り、蠢く甘い刺激に私の膣内は意図する事無く勝手に痙攣を起こし、彼を締め付ける。
顎を掴まれ、叩き付けられながら口内を蹂躙され、もう苦しくて、でも、追いかけてくる快感に抗えなくて、私は必死に彼にしがみ付いて“もう許して”と涙を滲ませ懇願する。
喘ぎ、呼吸を荒げ、痙攣しながら彼を見上げれば、彼は満足そうに口角を上げて私を見下ろしていて…、部屋の薄明かりを背に、逆光でぼんやりと、汗を滲ませながら私を抱く彼はとても綺麗で…、
その彼を見詰めていれば私はまた違う高揚と快楽に襲われる。
「―――――ッッ、あ、あああッ!」
淫らに腰をくねらせ、反らせて悲鳴を上げ、仕上げだ、と、私の膝裏を酷く折り曲げて逃げられない様に穿つ。
私に掛る、彼の呼吸が獣のように荒くなる。
彼の顔に、私を啼かせて愉しむ、という“余裕”の二文字が消え、薄ら汗が額に滲む。
彼の果てが近い事を、私は彼の打ち付けと表情で理解する。
「……ぁ、…ッは……」
「あ、ああっ、も…、……っ、だめ…」
「呼べ、俺の名を…」
「ア、ぁっ、ああ、は、……!」
…はじ、め……ッ!
溜めた熱を私の中に放ち、ぞわりと皮膚を粟立たせぶるりと一つ身震いをして私の首筋に顔を埋め脱力する。
私に覆い被さる彼を抱きしめながら、私も導かれる様に達して
「……ンぅ、……ッあ、ア……っ」
ぎゅう、と彼にしがみ付いて彼の体温を感じて、私も一つ、身を震わせた。