好きになったきっかけはありきたり。
何も特別なことはなくて、たまたま席が隣になったというだけ。

「俺、出水公平。よろしくな!」

綺麗な白い歯を出して笑う彼に恋をした。
出水くんは明るくて、友達も多くて、みんなに好かれるような男の子。
いつも休み時間に、同じクラスの米屋くんと一緒に「彼女がほしい」とぼやいているけど、出水くんはモテないわけじゃない。
彼のことが好きな子は沢山いるけど、人にも分かるくらいアピールする子がいないだけ。
その証拠に、

「出水これあげる」
「なにこれ」
「糖分補給。米屋もどうぞ」
「やったー!!」
「ありがとな」

ほらね。
さり気なく、気づかれないようにアピールするんだ。
出水くん自身が鈍感なのも相まって、誰もアピールしない。
分かるようにアピールしないことが暗黙のルールなんだと思う。

「やっべ、今から任務だ」
「私がノート取っておこうか?」
「マジか!サンキュー!!」

私にできることはたぶんこれくらい。
それも、1ヶ月っていうタイムリミット付きだけど。
隣の席の特権ってやつだ。

「こんな恋して何が楽しいんだろう」

と、独り言のように呟くと

「楽しくないなら辞めちゃえば?」

なんて、友達は言う。
簡単に辞められるなら、ドツボに嵌る前に辞めてる。
どうしたってこの思いは止められないんだと思う。

「だからって思い伝えなくてどうすんの?一生その思い抱えたまんまでいるの?」
「他にもっと好きな人ができるといいね」

なんて、苦笑いをしながら言うと

「真愛は他に好きな人ができないんじゃなくて出水くんしか見ようとしてないんだよ。そりゃあ他に好きな人なんてできるはずないよ」

と、的確なアドバイスを貰った。
確かにそうだ。
いつだって私は彼だけを見ていた。
彼の一挙一動を見て、彼のことを知って。
他のことが目に入らないくらい。

「手遅れなのかな」
「手遅れだね」
「そっか」

考えれば考えるほど、自分の恋の幼稚さには呆れる。
告白する勇気もないくせに。
嫉妬だけは一人前な幼稚な恋。

「弾バカ、まさかあの子彼女!?」

ある日、出水くんが女の子と登校してきた。
それに対して騒いでいるのは米屋くんだけだけど。
少なからず動揺している女の子はいるはずだ。

「そーだけど」
「嘘だ。あの子超可愛いじゃねーか!!」

横から取られても文句は言えない。
自分はこの関係を変えようともしなかったのだから。
それでも、私のこの気持ちは確かに恋だった。
それだけは胸を張って言える。

「私、次は頑張ってみようかな」
「真愛?」
「次は後悔しないように、1歩踏み出してみる」
「……そっか。じゃあ今度、進学校の男の子と合コンするから行こうか!」
「い、いきなり合コン……」
「っていう名の少しオシャレなカフェで喋るだけだよ」
「怪しくない?」
「大丈夫。私の知り合いがいるから」
「そ、そうなんだ……」

お題配布元.確かに恋だった




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