人の密集する昼休みの購買でも、好きな人ならすぐ見つけられる。周りより頭ひとつ高いその人を視界に捉えた瞬間、あたしは走り出していた。


「マッキー先輩!!」
「うおっ」
「こんにちはマッキー先輩!!こんなところで会うなんて運命ですね!!赤い糸で繋がってるんですよ!!キャーッもう付き合っちゃいませんか?」
「運命じゃなくて偶然だし赤い糸では繋がってないし。つーか離れろ」

ブラウスの襟を引っ張られて厚い胸板とさよならぐっばい。今日はシトラスの匂い。制汗剤新しくしたんですね。

「先輩先輩、メロンパンおごってください」
「やだ」
「あたしがおごってもいいですよ?お礼は先輩の彼女になる権利で」
「昨日小遣いもらったばっかなんで」
「先輩冷たい……」

泣き真似をしても、先輩は無反応。黒い長財布から百円玉を取り出してる。仕方ないからあたしもピンク色の小銭入れを開けた。やべ、メロンパンって150円だっけ。140円しか入ってないや。

「先輩先輩」
「あー?」
「10円貸してくれたりしませんか?」
「なに、金ないの」
「えへへー……」

照れ隠しに笑ってみた。ゴミを見るような目であたしを見下ろす先輩、ゾクゾクする。

「お前に貸す金はない」
「そんな!!わたしのお昼ご飯がなくなってしまう!!」
「パン一個なんてなくても変わんねぇだろ」
「変わりますよおおお先輩お願いですからお恵みをおおおお」
「気持ち悪い」
「そんな殺生な!!」

仕方ない……。教室戻って友達に借りよ……戻ってきてもメロンパン残ってますように……。

先輩の隣から離れちゃうのが悲しかったけど、お金がなくちゃ意味がない。お会計してる先輩に失礼しますって挨拶して列を離れた。無反応。冷たいところも素敵!!



「名前」
「はいっ!!」

購買のドアを出て校舎への渡り廊下を歩いていたところで先輩に名前を呼ばれたから、条件反射で振り向いた。なにかたちが頭に乗せられて、落っこちそうになったのを慌ててキャッチ。グッジョブあたし。

「もっと食え」

それだけ言って、マッキー先輩はドアをくぐった。あたしの両手にはメロンパンとカレーパンとおかかおにぎり。こんなことされて、にやけないほうがおかしい。長い脚をだらだら動かして教室に戻る先輩を走って追いかけた。


「先輩先輩」
「んだよ」
「先輩ってけっこうあたしに甘いですよね」
「調子のんな」
「付き合ってあげてもいいですよ?」
「なんで上からなんだよ」

んふふふふって笑ったら、気持ち悪いって言われた。先輩の口元がゆるんでるのには、気付かないふりをしてあげます。

「先輩大好き!!」
「あっそ」


 戻る
ALICE+