東京の学校で寮暮らしをしている洋一は、一年のうち大晦日と元旦の二日間だけ家に帰ってくる。だからわたしは大掃除を30日に終わらせて、大晦日は洋一の部屋で過ごす。去年は冬休みの課題をやったり、書き忘れた年賀状を書いたりしてたけど、今年はまったりしたくてお菓子とジュースを持ってお隣に来た。なのに。


「よーいち」
「あー?」
「かまえ」

あろうことか、洋一はリビングであぐらをかいてテレビに向かっていた。画面には向かい合う二人の男。手には黒いコントローラー。こいつゲームしてやがる。

「おー」
「かまえよお」
「あー」
「よーいちい!!」
「あっやべっ」

聞いてない。なんだよくそう。もういいひとりでお菓子食べてやる。オレンジジュースだってコーラだってあげないんだから。

ばりっばりっ。ドカーン。どぽどぽ。シュッシュッ。

ふたつの音が誰もいないリビングに落ちる。おばさんはお母さんと買い出し。おじさんはお父さんと我が家で飲んでる。だからこの家には二人っきり。

洋一がこっちを見る気配はない。ゲーム憎し。コンセント抜いてやろうか。怒られるからしないけど。

代わりに洋一の背中に触ってみた。反応なし。抱きついてやる。あ、あったかい。

「名前」
「……なに」
「ポテチ」

あ、と言って洋一が口を開けた。視線はテレビのまま。なんだこいつ。わたしはどうでもいいけどポテチは欲しいのか。なんだよなんだよ。むかつくから鼻に押しつけてやった。

「なにすんだ!!」
「うるせー!!わたしよりポテチとゲームとった罰だ!!」

ゲームはいつの間にかメニュー画面に変わってた。洋一がこっちを向いて、鼻を拭う。ふん、わたしの勝ち。

「かまってほしいなら素直に言えよ」
「散々言いましたけど!?」
「あー悪い悪い」
「心がこもってない」
「ちょーこめてる」

洋一の顎がわたしの肩に乗っかった。くすぐったいからあんま好きじゃないけど、今日だけ許してあげる。

「よーいち」
「んー?」
「おかえり」
「ヒャハッおっせーよ」
「洋一がゲームしてたからだもん」
「名前がなかなか来ないからだもん」
「もんとかきもい」
「名前」
「なに」
「ただいま」

ぎゅ。洋一がわたしを抱きしめた。


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