吐いた息が、白くなって空に消える。東京にも冬が来たみたいだ。マフラーで鼻まで隠して、五分後にくる電車を待つ。


「さっみぃ」
「冬だからね」

隣に立つ鉄朗は、大きな体を限界まですくめてぼやく。このクロネコは寒さに弱いみたいだ。

「なんでお前平気なの」
「ヒートテック2枚とカイロ4枚貼ってカイロふたつ持ってる」
「なんだそれずりぃ」
「頭を使うのだよ、頭を」
「カイロひとつよこせ」
「やだよ。あたしが寒くなる」

差し出した手を無視してコートのポケットからカイロを取り出して、頬をこすった。はーあったかい。カイロ様々だわ。

「大事な彼氏が風邪ひいてもいいのか」
「体調管理ぐらい自分でしてくださーい」
「かわいくねぇ」
「学年一の美女を前にしてなにを言う」
「頭わいてんのか」
「ひっど!!いま鉄朗が階段を膝から落ちる呪いかけたから」
「まあいいからカイロ貸せや」

不意に頬の温もりがなくなった。犯人なんて考えるまでもなく決まってる。頭二つほど上にある鉄朗の顔には、にやにやという言葉がぴったりな意地の悪い笑み。

「返してよ」
「ふたつ持ってんだからケチケチすんなよ」
「ふたつないとだめなの!!」

返せ!!と手を伸ばすが、腕の長さで鉄朗に勝てるわけがない。高く掲げられた腕からカイロを取り返すには、犬岡くんあたりに肩車してもらわないといけなかった。

「鉄朗のバカ。もーいい」
「まあまあ、機嫌なおせよ。こうすりゃいいだろ?」

にやりと笑った鉄朗に、伸ばしていた左手を拐われた。カイロを持っていた手は生ぬるくて変な感じ。

そうして繋いだ手は鉄朗のコートのポケットの中へ招かれる。いつの間にいれたのか、そこにはわたしのカイロが入っていてぽかぽかと暖かい。

「名前も俺もあったかい。はい解決ー」
「……これやりたかっただけでしょ」
「まあな」

表情を変えずに言う鉄朗の鼻は赤い。仕方ない、カイロも使えて暖かいから良しとしてあげよう。


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