20、海
海の彼方で眠ってる。
そう思ったらいてもたってもいられなくなって、
気がついたら着の身着のままで借家を飛び出していた。
行く当てなんかないのにな。
いや、元から行くところなんてなかった。
長いこと居心地のいいところにいたからすっかり忘れてた。
俺は「逃げてる」ってこと。
いっそこのまま姿をくらましてしまおうか。
良い考えじゃないか。
あいつが海の向こうで眠ってるんだ。
俺が行ってやらなくちゃ。
たぶん俺は、幸せすぎることが怖かったんだ。
また、失ってしまうことが怖かったんだ。
ごめんな。
まだそっちには行けないみたいだ。
いや、お前はずっと右手の中にいたんだっけ?