別れを惜しみながら、ぞろぞろと教室を後にするクラスメイト達の背中を見送る。中には未だに涙を流す子なんかもいて、あの子はさぞかしピュアな心の持ち主なんだろうなぁと心の中で嫌味を零した。


「…帰んねぇの?」


見上げた先には、真っ赤な目をした片岡先生。そう言えば、この人もピュアなんだった。年甲斐もなく、先生のくせに、めちゃくちゃ泣いてたもんね。


「今、待ってるの」
「待ってる?」
「そう。片岡先生を、待ってるの。」


きょとんとした先生は、そのまま前の座席に腰を下ろした。教室の端の席。まだ2、3人が残っている。


「俺に何か用だった?」
「…、っ」
「どした?大丈夫か?」


伺うように私の目を見て、優しい声で問い掛ける。さっきまで、何も考えないようにしていたのに。ぶわぁっと走馬灯のように思い出たちが頭の中を巡って、目頭がジーンと熱くなる。だめだ、泣くな、泣くな。


「……き、」
「ん?」
「片岡先生が、好き」


とてもじゃないけれど、目なんて見れなくて。というか、顔すらもあげられなくて。目に溜まる涙が瞬きと同時に落ちて、スカートに小さなシミを作る。まだ残っていたあの子たちは、もう帰ってしまったのだろうか。遠くの声が聞こえるほど、教室の中は静まり返っていた。


「…本気で、言ってくれてるんだよな。」


その言葉に力強く頷けば、片岡先生の大きな掌が、私の頭を優しく撫でる。先生は今、どんな顔をしているんだろう。


「名字の気持ち、すっげぇ嬉しい。ありがとう。」
「でも、」
「やっぱり俺の中では、今までも、今も、それからこの先もずっと、名字は俺の可愛い生徒だよ。」


口角こそ上がっているものの、眉は八の字に下がっていて、無理矢理に作った笑顔が悲しい。本当にそう思っているなら、私のことをただの生徒としか思っていないなら、涙なんて流さないでよ。男のくせに。先生のくせに。


「…ありがとう。」
「うん、俺も、ありがとう。」
「もう、気が済んだからね、先生のこと、好きじゃなくなったよ。」
「…うん。」
「もう、私…、先生のことなんてなんとも思ってない、ただの生徒だからね。」
「……うん。わかった。」


止め処なく流れる涙。泣きすぎて頭が痛いよ。きっと、後にも先にも、こんなに不細工な顔を誰かに見せることなんてない。纏めていた荷物を持って、明日から来ることのない教室を出た。勿論、最後は笑顔で手を振って。


強がりのエンディング


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