心がバラバラに離れていく感覚があるとして、あなたに触れた手が何時だって温かい保証はどこにもなかった。ずっとずっと繰り返したアイシテルなど、どうにもならないだろうに。
「これ、」
「え?」
「いいから、これ」
だけれど、あなたのぶっきらぼうなところは昔から好いていた。そんなに不器用ならば、嘘をつく必要も疑う必要もなかったから。真っ直ぐに、時にわたしを困らせて喜ばせて、そんなあなただけは信じることが出来たの。
「・・・うそ、」
「あのさ」
「…」
「、なんていうかな」
目の前に向かい合うようにして、見慣れた風景にいつものあなた。いつもに増してぎこちなく動くあなたの口がもどかしい。置かれた小さな箱。視線が何度も交わらず、そしてあなたは小さく息を吐く。
「結婚しますか、」
「・・・き、急に」
「間違えた。してもらってもいい?」
初めてあなたが笑う。その時にわたしは何処にあるかも分からない心が、確かに跳ねて、それから一つに集っていった。不器用な人。それからずるくて優しい人。わたしが初めて、離れたくないと感じる人。
「あなたが、よければ」
「うん」
「幸せにしてください」
「それはもちろん、」
幸せにするよ。その口調がとてもはっきりとしているから、わたしは上手くそれに応えれない。言葉が詰まったところで、漸くわたしは泣いているのかと気づく。わたしの母もいつぞやかこんなふうに幸せを感じたのだろうか。とても溢れて、捕らえることもできそうにない飛沫がずっとずっと降りかかったような、この感覚を。
「・・・え、泣いてる?」
「っ、ありがとう」
アイシテルは信用出来ないから、あなたにお礼を言った。影がもうじきひとつになったところで、わたしはあなたをずっと愛することがもう分かっているから、そんな言葉は掛けなくたってもう良かった。
Hydrangea is humility.
6月ですね。June Brideやらなんやら、紫陽花やら謙虚やら。
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