じゃあ君は?って手を出して
心にぽっかり穴が空いたよう。目を覚まして隣にないあなたの温もりが私を苦しめて、ふと現れるあなたの影が私を満たしていくそれ自体が、愚かで醜いというのに。

「あ、起きてんの」
「国見、」
「…服、着たがいいんじゃないですか」

朝。幾分と冷え込んだ今日はシーツから出ることをも拒んでしまう。素っ気ない態度で、国見はそこにいた。マグカップに注がれたであろうコーヒーの匂いが、部屋をいっぱいにしていた。

「なんでいるの、」
「及川さんなら俺が来る時にはいませんでしたよ」
「それは聞いてない」
「あ、俺じゃなくて及川さんがよかった?」
「…なに」
「、そんな顔しなくてもよくない?」

地震だ不倫だテロだと世間が騒ぐほど、自分の心の居場所が分からなくなった。それより何より、私には徹が必要で、国見の無表情なその目に映る滑稽な私をいつも亡くしたかった。解決をさせない報道と同じように、私の涙はいつだって無駄で、そして止まることなく溢れ出すのだ。

「帰って」
「無理」
「は、」
「構ってよ」
「嫌だ。気分じゃない」
「知ってる」
「じゃあ、」
「俺、なまえさんほっておける程ガキじゃない」

いつも側にいて欲しいのは徹なのに、慰めてくれるのはいつも国見だった。私の目から零れる涙を、国見は勿体ないと言って掬い取ってしまう。どうして拭うの。私は徹を思って泣くのも許されないの。じゃあ俺のために泣いてよ。国見には、私がどう見えるのだろうか。

「っ、可哀想な人ね」
「なまえさんも」
「う、うる」
「可哀想、」

2人の合図は"可哀想"だった。満たされなかった隙間に慰めだけが詰まっていく。そのまま埋もれて、窒息できればいいのに。国見じゃ私を満たせない。それと全く一緒で、私じゃ徹を満たせなかった。

目を瞑ったままキスをした。どんなに徹を重ねようとしても、コーヒーの匂いが現実を突きつけて、いっそう私を不憫にさせた。

「まだ泣くの」
「…っ、」
「なんで及川さんなんだ、っ…!」

2人して、泣いた。行き場のない衝動を閉じ込めて、塩っぱい涙を舐め合って。


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