Trigger is not drawn.
11月6日。苞羽は配属された公安のデスクを離れて電話をかけようとしていた。去年の明日は滞りなく過ぎたが、時系列をよくよく考え直せば今年だったのだ。

まずは何を伝えるか。遠隔操作でカウントが6秒から始まる。遠隔操作を行わせないなら通信機能抑止装置を使って解体するのが一番。防爆防護服を着させるのも大事だ。
あのシーンを見てなんで!?と声を荒げるくらいには大事なもの。その前に松田が詳しく説明してくれたし、それで着てないとか死亡フラグビンビンで目を覆いたかった。本当に。

閑話休題

通信機能抑止装置は備品としてあるはずだから使わせて、防爆防護服は意地でも着させる。万が一爆発してもギリギリ死なないかもしれない。逃げることはできないが。

「苞羽?」
「あ、兄さん。」
「どうした?眉間にシワ寄ってるぞ。」
「え、嘘。」
「怖い顔してたし、なんか凄く考えてるのは伝わった。」
「あー、うん……。考え事。」
「何か大事なことなんだろ?」
「そう、大事なこと。だからどう伝えるべきかなって。要点は纏まってるんだけど、なにせ相手が相手。下手なことしたら別のことに気づかれちゃうから……。」
「鋭いのか?その相手。」
「鋭い。多分電話越しでもそのあたり変わらないと思う。」
「う〜ん、でも相手は苞羽のこと知ってる人だろ?」
「知ってるよ。」
「なら別のことに気づいても何も聞いてこないんじゃないか?」
「………あぁ、確かに可能性として全然ある。」

燿がキョトンとした顔で齎した言葉に、苞羽もまたキョトンとした。萩原ならとてもありえる話だ。無用な詮索をしないのは苞羽のいた班のメンバーに共通すること。失念していた。

「兄さん、ありがとう。取り敢えず電話してみるね。」
「解決したか?」
「うん。考えてみても始まらないからもう話してみる。」
「今から?休憩終わるまで時間ないから早めにな。」

燿は自販機に用事があったのか、廊下の角を曲がって消えていった。非常階段の扉を開けて階段に腰掛ける。電話帳から萩原の番号を探し出し、コールボタンを押した。もし取らないようなら夜にでもかけなおせば、

『―――もしもし、苞羽ちゃん!?』
「やっほ、萩。」
『ビックリしたぜ?卒配の時から怪しさ満点だったけど、本気で連絡取れなくなるとは思ってなかった……。』
「諸事情ってやつ?萩は希望通り機動隊の爆発物処理班でしょ?」
『ああ、そうだけど……。』
「明日当番?」
『え、いや待って。そうだけど、何、何かあんの?苞羽ちゃんの部署関連で。』
「私の部署は関係ないし、多分それならこっちで処理しちゃうよ。……前萩に話した予知みたいな予見みたいなやつ。」
『………詳しく聞いていいんだよね?』
「私は注意点しか話せないけど。」
『でもその注意点が俺か、同じ日に当番の松田にとっては大事、なんだろ?じゃなかったら急に電話してこないもんな。』
「それは、ほんとごめん。」
『いいっていいって。その前から聞いてた話だし。……そっちも休憩中?なら早いとこ本題に入っちまおう。』
「あぁ、そうだね。明日、出動があるよ。松田も、萩も。特に萩は気をつけて。」
『特に、俺?』
「防爆防護服はキチンと着て欲しい。仮にタイマーが止まったとしても、解体が完了するまで脱がないで。凄く暑いのは分かってるけど。それから通信機能抑止装置、必ず持って行って使って。」
『……それが苞羽ちゃんの予知?』
「そう、だね。」
『…………。』

向こう側からは何も聞こえない。誰かの話し声はするが、それは萩原ではなかった。何を考え込んでいるのか、何を疑っているのか。苞羽が前世の記憶で原作に介入するのは初めてだし、この場合はどうやっても自分で解決はできない。これから起こることを萩原に伝えるか、気をつけて欲しいところだけを伝えるかの二択。
どちらを選んでも疑いを持たれるのは当たり前だ。彼らは苞羽のそんな不思議な力を冗談で考えていたのかもしれない。ちょっと変なところをそれに当てはめていただけかもしれない。
注意点だけとはいえ、ここまで細かに言われてはこの反応は当然。冗談では済まされない、悪戯ならとてつもなく悪趣味だ。

『―――分かった。明日は通信機能抑止装置を持っていく。あのクソ暑い防爆防護服は着たかないが、苞羽ちゃんが言うんなら着よう。どちらも俺がどうにか出来る範囲内だし、元々やっておくに越したことはないからなぁ。』
「え、」
『苞羽ちゃん俺が信じないと思ってただろ?警察学校にいた頃言ったじゃん。それを信じることが馬鹿なら馬鹿でもいいって。俺は馬鹿なんで今でも信じてますけどー?』
「萩……。」
『松田にも同じ伝言伝えといたほうがいい感じ?』
「えっと……。そうだね。伝えといたほうがいいかも。」
『分かった。さっきから上司が呼んでるから行くな?また電話するわ。』

松田の方は解体済みから始まっていたから必要はないと思うが、介入する以上は念には念を入れておきたい。萩原の方が本命ではあるが、それが実際起きた時はどうか分からないのだから。必ず全てが同じように動くとは限らない、それで当然なのだ。




translations:トリガーは引かれない


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