Trigger is not drawn.2
この話の続き

翌日、11月7日。

萩原は高層マンションの20階にいた。苞羽の電話の内容と同じ。松田と萩原は出動命令が出て、二手に別れた。爆弾の形を見れば、自分にだけ注意を促した理由も理解する。こっちが、本命だ。

「ッチ、時間内に間に合わねぇな。条件を飲むよう伝えてくれ。安全性を考えるなら瀬戸際の解体なんざ出来ん。」
「わ、分かりました!」
「(タイマーが止まっても、って言ってか?条件を飲まなきゃタイマーはどちらにせよ止まらない。その上でまだ何がある……?)」
「萩原隊員。松田隊員は解体に成功した模様です。」
「おー、向こうは終えられたってことはやっぱりこっちが本命だな。……にしても、暑い。」
「萩原隊員、犯人に条件を飲むと伝えました。じきにタイマーも止まるかと……。」

防爆防護服は5分が限界だ。それ以上着るのは無理に近い。ただ、萩原は只管暑さに耐え続けた。苞羽が言うには、これを脱げば終わりだ。萩原に提示された2つの注意は、どちらかが欠けていれば大怪我ぐらいは負うだろう。
と、その時。爆弾につけられていたパネルの電源が落ちた。タイマーが止まったことを指す。

「住民の避難を急いでくれ。避難が確認でき次第、通信機能抑止装置を用いて解体を始める。」
「了解!」

煙草を吸いたい衝動に駆られるが、それはイコール防爆防護服を脱ぐことを意味する。ニコチンが足りないとか言っていられないのだ。命のほうが大事。連絡係をしていた機動隊員が無線に耳を近づけ、何かしらを聞き取ったのか萩原に声をかける。

「当マンションの住民、避難完了しました。」
「了解。んじゃまぁ、ゆるゆるといきますか。暑いから早めに終わらせたいしな。」
「もう爆発しないなら脱いでも……。」
「その選択肢は最初からないな。アイツの言葉を無視して死ぬのと、暑さで死ぬのなら暑さのほうがマシだ。どんなにみっともなくとも……。まぁ、気にしなさんな。え〜、感光起爆装置用光電管。水銀レバーから白いコード。液晶パネルから……。」

そこまで言葉を紡いだところで、電子音が機織りを邪魔した。暑からの苛立ちで思わず舌打ちしそうになる。携帯を預けてあった機動隊員に取るよう指示をした。インカムを繋いでいたため、そちらで電話を取れれば萩原も会話ができる。

「松田ァ!何の用だ!暑いんだよ!」
「萩原ァ!何のんびりやってんだ!さっさとバラしちまえよ!」
「おいおい、そうがなりなさんな。タイマーは止まんってんだ。そっちは終わったんだろ?連絡入ったぜ。」
「あぁ、開けてみたら案外単純な仕掛けだったからな。あの程度なら――」
「3分もありゃ十分だ、だろ?」
「――ッチ!!そっちはどうなんだ?」
「こっちは3分って訳にはいかないようだ。基本的には単純なんだが、何しろトラップが多くてな。どうやら、こっちが本命だったみたいだな。っだから暑いんだよ!もう防爆防護服を着れる限界は過ぎてんだ!」
「………とにかく、さっさと終わらせて降りてこいよ。いつもの所で待ってるからな。昨日すぐに切り上げられた苞羽の話も気になるしよ。」
「お、いいねぇ。そういうお誘いとあらばエンジン全開で行きますかぁ!そんじゃ、通信機能抑止装置使ってくれ。」

そこでノイズが掛かり繋がらなくなった。今マンションの外では松田が電話口に向かって吠えているだろう。さっさと終わらせて苞羽がしてくれた忠告の話でもして酒を引っ掛けつつ、連絡が取れなくなった優秀児たちの愚痴でも言い合いたい。

「さぁて。熱で頭がイっちまう前に終わらせるぜ。」


・・・


松田の言ういつもの所に、勤務終了からかなり経って萩原は到着した。灰皿には10本ではきかない量の吸い殻があり、かなりの時間待っていたことを示している。

「おー、松田。」
「おっせぇよ!」
「わりぃわりぃ。熱中症状態だったから軽く治療してきたんだよ。ま、生きてたんだからいいだろ。」
「あ?」

萩原は、あの防爆防護服に長時間身を包んでいたことによって熱中症を引き起こしていた。犯人が捕まっていないし、報告書は早く出さなければならないのだが治療と休息を優先させてくれた班長の言葉に甘えてあがったのだ。
治療と言っても、点滴をしたぐらい。それ以外は特に問題はなく、手足への痺れも出なかった。出てたら解体に影響していたので、萩原は自分を褒めたいくらいだ。

「ビール一つ。……昨日苞羽から連絡あったのは話しただろ?」
「おぉ、その話を聞きたかったんだよ。」
「あの電話がなかったら死んでたさ。犯人の片方はまだ捕まってねぇ。けど爆弾が止まってないと勘違いして電話をかけてきて死んだ犯人がいただろ。あれ、一歩間違えれば遠隔操作で爆発してたぞ。」
「……..。確かに、な。」
「俺が生きてたのは、苞羽が通信機能抑止装置を使えって言ったのと、間にあわなかった時に最低死なない防爆防護服を着ろって言ったからだ。そうじゃなけりゃ、タイマーが止まった時点で脱いでたさ。そんで通信機能抑止装置も使わねぇで解体しようとして、おっ死んでた。」
「………アイツの、予知か。」
「だろうな。俺の方が本命だとも見抜いてた見てぇだし。足を向けて寝られんな。」
「ったく、ホントに苞羽は底知れねぇ。行方不明の三人は公安だろ?よく電話なんか出来たな。」
「メールを送っても返さねぇのにな。まぁ隠して連絡したんじゃね?公安の内情なんか詳しくわからんが、名前を消される部署がそんな軽率なわけが、」
「ないな。全く。」

ビールを一口、それから煙草に火をつけて語らいを始めるのだった。




translations:トリガーは引かれない


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