”世界”も無事稼働し、”赤服”を退けた刹那達。
あんずは療養のために王城の空いてる部屋に。”世界”である刹那が1人で負担せずとも動かせるように補佐を置き、未だに鏡が正常に作動しているわけではないがエデンに出たりと頻度は減っても変わらず過ごせている。
とはいえ補佐をいつも置いているわけではないので、一人の時もあるのだ。
まさに、いま。

ふと息苦しくなる。いまこの場にあるのは水じゃない、空気のはずなんだ。どれだけ深海の青をしていようともここには人であるには必須のものがあるんだ。
そのはずなのに酸素が吸えない。どれだけ肺を膨らましても流れ込んでくるのは異物で酸素ではないのだ。凛月がいないからなのか。刹那にとっての酸素は彼なのだ。四方の海を掌握しているどころか、その生き死にさえ決めている。
刹那は結界の中で苦しそうにもがきながら喉元を引っ掻き、涙と酸欠で歪む視界で凛月を探す。
そうして手を伸ばした。目の前にいる、凛月に―――。

そこでふと我に返った。息苦しさは残るものの、ぼやけていた視界がはっきりしてくる。
今刹那が伸ばしていた手の先は虚空。先ほどまで見ていた凛月は幻覚だったのか。ふっと息を吐けば、エレベーターの鈴が鳴った。
白いマントの凛月と奏汰が天球儀に向かって歩いてきた。
どうりで、と納得する。急に酸素が入ってきたのは凛月がここに来たから。酸素である彼が同じところにいるのだから呼吸できて当然だ。

「ま〜くんが休憩に入っていいよって言うから知らせに来たよ〜。」
「おつかれさまです〜。」
「ありがとう。」

刹那は結界を解き、子午環に腰を掛けた。2人は階段を上がって来て凛月は4本足の一つに背を預け、奏汰は段差位置に座り足を放り投げている。

「平和過ぎて息苦しい?」
「まあ、統治してるのが刹那なら別にいいかなぁ。正に俺の四方の海は刹那に掌握されてるわけだし。」
「『まえ』まではいきぐるしく感じましたが、とくに『いま』は感じません。
むしろ『ふあん』がなくなりました。」
「なら、とりあえず良いかなぁ。双子もに〜ちゃんも薫も創も真実を知ったが故に生きやすくなったって言ってたし。」
「まだ長く生きるつもりだし、ずっと刹那に追いかけられてるのは吝かじゃないなぁ…。」
「りつはかわりませんね。」

彼らの日常も戻っている。大広場の修復も終わり、いつも通りに。薫はこれを機にエデン所属となり、今度は白をはためかせている。ゆうたとよく稽古をしているようで、毎度互角の戦いだそうだ。
創はエデン内の植物園の管理や大図書館の管理など細々とした仕事をしているが、凛月の稽古で戦闘の才能はめきめきと伸びている。
若い子は成長が早いねぇ、なんて話をついこの間していたのだ。





―――――彼女は愛を一本の蝋燭に例えた。
しかし、その長さは”珪砂"が考えているよりもずっと長い。
どれだけ上を向いても確認のしようがないほどである。
彼女らが一体それをどこまで燃やしたのかは、想像し得ない領域だろう。


「私達の生は生きて尽きることのない永遠だ。」




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