安定してきたあんずはその後”傷硝子”と名がつけられ、エデンの幹部に加わった。
そうして行われる会議は随分と空気が重い。全員が何について話すか分かっているのだろう。深淵区画と最終的には呼ばれた”世界”のもとから刹那が来て、始められた。

「まぁ、分かってるとは思うんだけど”赤服”に現在も囚われている前2柱の保護に行きたいと思います。あんずとちゃんと会って話して欲しいし、なによりこのままだと目覚めが悪い。せっかく記憶を引き摺りだした訳だし。」
「作戦決行は午後5時。”赤服”の本拠地は夢ノ咲学院の地下らしい。」
「俺は行ったことないんだけどね〜。お偉いさんはそこにいて、有事の際に外に出てくるんだって。」
「こんな所で”世界”の力が役に立つなんてねぇ〜。」
「そんなわけで割り振りだけしておくよ。私たちが計画立ててもその通りに行かないのはお分かりの通りだし。
かなり瀬戸際みたいだから学院内に”珪砂”が残ることになる。で、学院内の待機組がゆうた、薫、創。状況を確認次第地下に向かうのが私とひなた。道が開けたら奏汰があんずを連れて地下に。先陣は凛月。
そんな感じかな?なずなはどうする?」
「学院の直ぐ近くに一個アパート借りてたからそこからだな。さすがに室内だから狙えないけどナビは任せとけ!」

鏡がようやく正常に動くようになり、早急に済まさなければならないことと言えば学院襲撃後に捕まった前2柱。薫の話で更生を始めるには早くても2ヶ月必要らしい。まだ学院襲撃1ヶ月程しか経っていないため間に合うだろう。そう考えて早々に動くことにしたのだ。
幾度となく立ててきた作戦を大概おじゃんにしてきた彼らは、言わずと最後はレオと零の救出なので割り振りだけ決めて準備を始める。
そうすればすぐに時間が経ち、媒介を通して第二棟へ出た。日が少しずつ沈んでいるのが確認でき時間に大きな変更はなさそうだ。事前になずなが確認したところ『防音室−B』に全員いるらしい。イベント前の会議だろうか、しかし珍しいことだ。刹那達にとってはこれ以上なく都合がいいのだが。
本校舎へ向かう道の途中で凛月と別れ、それ以外は『防音室−B』へ走った。扉を勢いよく開ければ中にいた全員の視線が刺さる。

「久しぶり。土足で失礼してるよ。」
「やっほ〜。元気にしてる?」
「刹那ちゃん、一体どうしたんだい?」

英智が立ち上がり刹那に向かってそう問いかける。困惑して当然だろう。この作戦に関しては一切告げていないのだ。時間がなかっただけなのだが。

「英智。レオと零、いないよね?」
「……あの後から連絡は取れていないよ。」
「じゃあ間違いないや。前2柱の保護に来たんだ。”赤服”に物の見事に捕まったみたいで。作戦決行が早かったから巻き込まないようにこっちにも護衛を付けようと思ってね。」
「君たちは相変わらず唐突だね。」
「今回はたまたま。この場はゆうたと薫、創に任せる形だよ。私とひなたはすぐにいかなきゃいけないし。」
「ぼくも『あんず』さんをつれて行かなきゃいけないですしね〜。」

奏汰の背後にいたあんずに英智は目を見開いた。真緒と共に何時の間にか学院から居なくなっていた人物だ。扉の陰には薫も見える。ついこの間奏汰と激戦を繰り広げた、”赤服”であるはずの。だが彼はよく目立つ白いマントを羽織っているのだ。
英智は些か急展開過ぎる状況に一瞬目が眩む。

「詳しいことは後で聞くよ。今は急いでるんだろう?凛月くんの姿もないし。」
「それでお願い。凛月は先行してるんだ。険しい顔してたし堪忍袋の緒が切れたんじゃない?肉親と、ユニットでも深い関わりがあった二人を洗脳されるなんて耐え難いし。まあ、好きに爆発させておけばそのうち収まるよ。
ひなた、このまま地下の入り口に道を開ける?」
「なずなさんから情報受け取っているので開けます!」

「じゃあお願い。」と一言返し、刹那は武器の生成を始める。ひなたと刹那以外は生成を既にし終えていた。実践が初めての創の手には可変式の弓が握られている。弓にしては明らかにおかしい形をしており、弦を外すとしなりが取れて薙刀になるのだ。遠近兼用でどちらも初心者に勧められている武器。
刹那は道を繋ぐひなたを尻目にもう一つの武器、円月輪を具現化する。二つの刃を結ぶピアノ線をちぎり唯一の扉の足元に張っておく。
あえて言葉を発さず一拍叩けば再び視線が集まった。静かにとジェスチャーをしてそのまま罠を仕掛けた所を指し、その後足首を軽く叩きそこが切れると伝える。
見る、と言うのは思いの外難しいが会話を聞くと言うのはそこまで難易度が高くない。盗聴器の類を仕掛けておけば済む話である。

「終わりました!いつでも開けますよ。」
「変に狭間に落ちないね?」
「俺を誰だと思ってるんですか!これくらいなら御茶の子さいさいです!」

ひなたの頭を軽く叩けば、少しむず痒そうにしながらも道を開けた。ぽっかりと空いた人が1人は簡単に通れそうな穴はそのまま真下に伸びている。
「奏汰、合図したらお願い。皆もこの場を頼むよ。」と刹那は穴に降りた。少し経ってからひなたも降りて道は閉じる。

「創くん緊張してる?初めての作戦だもんね。って言うか、そもそもこっちから仕掛けることないし。安心してよ。あの人たち、伊達に頭イッてないから。」
「そう、ですか…?」
「うん。強いしかっこいいけど同じくらいイかれてる。」
「あながち『まちがい』ではありませんね〜。」
「……そんなに酷かったなんて知らなかったです。刹那ちゃんしっかりしてたから。でも戦闘もできるんだね。」
「あんずちゃんは出来ないの?」
「殆ど無理ですね。他の2柱が強かったから、余計必要なかったですし。」




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