道から出て着地すれば既に血だまり。なずな曰く凛月はだいぶ先に行っているようだ。ここにある遺体も”世界”直属の管理組織の方へ送れば蘇りはするだろう。
人工の光が続く道を駆けていれば、急いでたからか仕留め損ねた”赤服”がいたためその首を飛ばす。下手に追われて挟み撃ちでもされたら厄介だ。
程なくして凛月の姿が見えた。かなり殺気立っている様子でいつもより雑な戦い方になっている。

「凛月。追いついたよ。」
「あ、刹那〜。それにひなたも。遅かったね。」
「ごめんって。」
「すみません。道開いてたので。」

目の前には10人程度。どれもあのWには劣る力量のようだ。青い炎を揺らしながら切りかかり、飛び出た血飛沫を避けるように振り返り遠心力で首を跳ね飛ばす。凛月はもう先に進んでおり、思いの外余裕がないな、と薄く笑う。
鉄製の扉を開ければ片側2つの計4つの扉と、正面に豪華な扉。凛月とひなたに正面の扉に行くように促し、刹那は左手前の扉から奥に向かってジグザグに順に開けていく。左手前は空。右手前も空。
左手奥はきつく縛られ、眠らされている状態の零がいた。頬を優しく叩けば反応がありかすかに息が漏れる。そのまま椅子の後ろに回り靴に仕込んでいた小さなナイフで切っていく。

「零、起きた?」
「……はて、これは?」
「捕まったんでしょ”赤服”に。時間ないから急ぐよ。」

足の縄も切り落としたところで零は立ち上がり軽く飛び跳ねる。長時間この形だったせいで痛みはあるが大きな支障はなさそうだ。
そのまま右手奥、つまりこの部屋の正面の部屋に進めば同じような状態のレオ。起こせば「なんだこれは!?」と変わらず元気なようだ。縄を全て切れば体を軽く揺すりながら異常がないか確かめている。

「凛月とひなたはこの先の扉に進んでる。殿は私が勤めるから先に行って。」
「お?なんだ助けに来てくれたのか!先頭は任せておけ!」
「ここまで迷惑かけたのじゃ。熟さんとなぁ。」

扉を開けたのと同時に後方から微かに風を切るとがした。だが刹那はなずなに2人は無事だという連絡と奏汰への合図のために念話を繋げていた。その音に気が付いた時にはもう遅く、背中からお腹にかけて焼けるような熱さを感じる。刺さったそれが長物だったのもあって重みでつい膝をつく。

「刹那!?」
「嬢ちゃんや!!大丈夫かえ!?」
「あ〜。多分。これ槍だよね?折ってもらっていい?このままじゃ動けないし。」

痛みを感じるものの、伊達に怪我などしていない。既に”聖”の力で止血を完了しているが、抜いてしまうと止まった血が再び出てしまう。この場で出来る事と言えば重さのある柄をある程度短くし動けるようにすること。抜くのはエデンに帰ってからの方が安全だ。
先程仕舞っていたナイフを取りだしレオに渡す。ナイフを使った方がより衝撃無く折れるのだ。

「お、おう。お前のブーツ殺意高いな。」
「仕込みナイフとは末恐ろしいわい。」
「私基本長物と投擲しか持ってないから。」

レオは刹那の背後に回り膝に柄を乗せなるべく短く折った。若干衝撃が走ったが抜くよりましだ。零は槍が飛んできた方を見るがそこには事切れた遺体があるだけ。最後の力を振り絞って槍を投げたのだろう。
そう思った直後複数の足音が聞こえる。開けっ放しの扉から見えたのは白いマントを羽織った2人。奏汰とあんずが来ていたのだ。槍が刺さったのと同タイミングで念話は切れており、なずなのほうには今の状況は伝わっていない。地下は”幻”の力でも対象外なのだ。

「刹那ちゃん!?」
「あんず大丈夫だから。2人とも零とレオを早く上に。もうこの先で決戦迎えてるはずだから。」

駆け寄ってくるあんずを緩く制しながらそう話した。が、「とは言ってもねぇ〜。」と聞きなれた声も重なる。この扉の先にいるはずの凛月の声。

「なんかあっけなく終わっちゃったんだけどこれでいいの?」
「あんまり手ごたえ無かったですよ?」
「『はやい』ですね〜。そんなにでしたか?」
「うん。兄者たち捕まえに来たのはどんな人だった?」
「オールバックの金髪。ご丁寧にWとか名乗ってたか?」
「そうじゃな。後は藍色の長髪の男か。Xだったかのお。」
「………なるほど、既に私たちが沈めてたあの2人か。」
「『つよい』ですもんね……。」
「じゃ、問題なしだねぇ。それで?刹那何それ大丈夫なの?」

彼ら2人を捕まえたのは例の攻撃力首席次席の2人だった。確かに安定した武器なしでは難しいところだ。凛月は会話の中で自然と刹那に向けていた視線がくぎ付けになる。取り乱しはしないものの、僅かに目を細めた。

「今槍飛んできて躱せなかったんだよね。大丈夫だから早く上に行こう。地下の空気ほど淀んだところはないよ。」
「……そう?あんま無茶しないでよねぇ〜。ほんとに閉じ込めるよ?」
「ははっ、勘弁してよ。」

そう返して先を進む。零とレオからの目が痛いが、おそらくあんずがこの場にいる事情がつかめないのだろう。その上凛月の発言は彼らの目に余るようだ。
刹那が先頭を行き零とレオ、ひなたとあんず、奏汰と凛月の順で走っていく。既に奏汰が作戦成功の念話を送ったようで、ゆうたが道を繋げてあるらしい。
走りながら、はためくマントと槍がぶつかり邪魔に感じた刹那は後ろのレオに投げる。瞬きしながら受け取ると、懐かしさを感じたのか羽織って走った。両手がふさがらないためすぐ動けるという意味もあるのだが。
ひなたが開けた道と寸分たがわぬ位置にゆうたの開けた道があった。そこを通れば『防音室−B』に着く。生徒たちがぎょっとする最中、一人違う反応を示した。
アメジストの瞳に涙を溜めながらレオを見ていた、司。
彼らは総じて白いマントで思い出すのだろうか。刹那のマントを羽織っていたレオもまた目を見開く。

「どういうこと、ですか!?」
「って、俺に聞かれてもなぁ…。」
「もしかして”硝子の子”?」
「レオくんの息子じゃよ。ちなみに我輩の息子は衣更くんじゃ。ここにはいないのかえ?」
「………びっくりして心臓出そう。こんなことあるんですか?」
「あるみたいですね〜。」
「兄者、ま〜くんは”世界”直属の管理組織にいるよ。………なんかとんでもないなぁ。」

爆発してしまった司をレオが窘める。零も何事もなかったかのように真緒が息子であることを話し、現幹部は目眩がしているようだ。そもそも”硝子の子”とは巡り会えない確率の方が高いのに、この場には”硝子の子”の父親が3人。
その光景を眺めていると創が刹那に向かって走ってきた。

「お母様!怪我は大丈夫なのですか!?」
「平気だから落ち着いて。エデン戻ったらちゃんと取るよ。」
「……なんだか、僕たちの置いてけぼり感ときたら凄いね。」
「ごめんね?それぞれ感動の再会的な感じだからさ。それでね、君たちをこれからエデンに招待しようと思うんだ。いろいろ迷惑をかけたし。」
「エデンって”硝子”以外は入れないんじゃ……?」
「う〜ん。正確には違うかな。”硝子”が引けば入れるの。だから政府の要人とかも入ったことある人いるよ。”硝子"はね"珪砂"のこと好ましく思ってるんだ。儚くも強く輝いた生を持つ君達を。でもなかなか話す機会がなくて、よかったら交流してあげて。」
「……みんなはどうしたい?」

スバルの疑問はもっともだ。”硝子”だけの楽園と呼ばれたエデンに”珪砂”が入れるなんて予想だにしなかっただろう。
刹那の言葉を聞いて英智が生徒に問いかけると、戸惑いと楽しみな表情を浮かべて頷いた。”珪砂”と出会っていなかったような”硝子”もいたからいい経験になるだろう。と刹那は緩く笑う。

「<至急連絡!本拠地の異常が分かってか結構な数戻って来てる!そこから狙撃だ!>」




BACK