なずなから現幹部に念話が入った。作戦に意外と時間が掛かっていたのか、近くにいたのか。
そこから狙撃と言うことは窓から視認できる位置にいるということ。刹那は全員を屈ませ逸早く窓へ行く。20人程度か。恐らくここに詰めていた下っ端の方だろう。
創を呼びよせ、弓を構えるように促す。

「創、丁度いいから実践をしてしまおう。しっかり構えて狙ってごらん。」
「は、はい……。」

創は可変弓を構え開いている窓の前から狙いを定める。向こうは走っている為そこの移動も考え、放つ。綺麗に飛んだ矢は眉間を捉え、そのまま地に伏した。初めての実戦にしてはよく出来ている。若干怯んで足が震えているものの、こんなものだろう。

「よく出来たね。さあ奏汰、残りはなずなと取り合いだよ。」
「まけませんっ……!」

安堵で泣き出しそうな創を下げ、既に銃を構えていた奏汰に変わる。狙撃においてはなずなが勝るが、距離の差があれば奏汰も勝てるのだ。
念話から「<得意分野にゃんらからな!>」と漏れている。自分の専門分野を取られたくはないのだろう。そして数分もしないうちに銃撃戦は終わり、刹那に言われるまでもなく双子は処理に入っている。
地下の本拠地は管理組織の方が処理するようで、そのままでいいと言われたのだ。

「刹那〜。鏡これでいい?」
「妥当じゃない?これだけの数を引くわけだし。」

凛月が示したのはレッスンでは必需品の壁につけられた鏡。移動する手間もないし、大きいため楽だ。なずなは先に戻っているようで、念話の接続が切れている。

「お片付け終わりました!また仕事増えますね。」
「そうだねぇ。仕方ないよ〜。」
「刹那の嬢ちゃんや、なぜあんずの嬢ちゃんがマントを?」
「それは向こう行ってからで。あんず、その話していいんだよね?」
「うん。隠すことじゃないし。」

未だ不服そうな顔をする零にもう少しだ、と返し鏡を動かす。1人で4人近く引けば問題ない。波紋を広げている鏡を珍しそうな目で見る”珪砂”の手を引き、そのまま鏡に飲まれた。


・・・


相変わらず楽園だ。英智は久しぶりのエデンに頬が緩む。「おぉ〜!」と感嘆を漏らす”珪砂”は目をキラキラ輝かせていた。見たことのない至上の楽園。

「楽しそうだね。こっちだよ。」

訓練場の横を抜け大広場に出れば多くの”硝子”達が駆け寄ってくる。

「陛下!刺さってますね、珍しい!」
「本当だ!陛下に刺さってる!」
「怪我は戦士の勲章だよ〜。」
「かっこいい!」
「花作れるようになったんですよ!」
「凄いじゃない。氷のオブジェも皆で作ったの?」
「はい!これから飾りつけなんです。」

噴水の縁に置かれた氷のオブジェは立派で”硝子”たちを抱き寄せて褒める。色々なことを知ってどんどん成長していくのだ。力の制御もできるようになった、頼もしい子たち。

「”君主”様!飾りつけ何がいいと思いますか?」
「ん〜?そうだねぇ、それじゃあ。」

凛月は”木”の力で花の輪っかを作り、それをオブジェに乗せる。人型の、自由の女神に近い形をしているオブジェは少し華やかになった。

「せっかく手の部分があるんだし熱くない火でも灯そうか。青になるけどいい?」
「やったぁ!青い炎大好きなんです!」
「凛月、着火台作って〜。」
「俺じゃなくて奏汰に言って〜。」
「……『にたものどうし』もいいところですね…。」

奏汰に若干呆れられながらも着火台を作ってもらいそれを上に挙げた右手にくっつける。そこに熱を持たない青い火を灯した。子供たちは嬉しくて飛び跳ねている。
”珪砂”はその姿を酷く微笑ましげに見ていた。前2柱は若干目を見開ているが。

「我輩らとは雲泥の差じゃな。」
「そもそも関わった覚えがない。」
「慕われてはいたんじゃないですか?3柱にいたわけですし。」

刹那は再び子供たちの頭を撫で王城へ向かった。直接世界のもとに連れていくため玉座の間まで案内し、刹那とゆうたは別行動をする。
槍を抜いて治療し、着替えなければなならないのだ。刹那がいない間に”世界”についての粗方は説明されているだろう。
ゆうたが声をかけると思いっきり槍が抜かれ熱が戻ってくる。”聖”で直ぐに止血をし、一日だけ包帯を巻いておくことにした。”世界”の服を着ると包帯が目立つのだが致し方ない。
玉座の間に戻り深淵区画へ降りる。一度道を閉じるのを忘れずに。
エレベーターが着けば凛月の声が響いた。

「ざっとこんな所ぉ?俺刹那よりか正確に把握してないんだけど。」
「大体は伝えられたと思うぞ?あとはあんずについてだな。」
「あんずが前の”世界”。”赤服”が外で戦争を起こしたタイミングで私と入れ替わってた。そして前”女王”。零とレオと同時期のね。」

ヒールを鳴らしながら歩き、階段を昇りながら会話に参加する。信じられないと言った風に目を見開きあんずを凝視した。器が違うと言いたいのだろうか。刹那達は皆同じ器で繰り返しているため、器が違うだけで別の人と認識してしまう。

「この体は本来の体じゃないんです。次”世界”になる人を見に行くために用意した仮のもの。”世界”だって繰り返しに巻き込まれますが、同じように体は変わりません。
本当は研究機関の方にお返ししなきゃいけないんですけど、2人と過ごした記憶があるのはこの体だから手放せなかったんです。」

ぎゅっと手を握りしめ、涙をこらえている様子のあんず。零とレオは互いに顔を見合わせあんずに駆け寄り飛びついた。
「実に平和だね。」刹那は苦笑いを零す。そろそろ業務に戻らなければならない。奏汰は既に台座の一つに座っていて、補佐をやってくれるようだ。

「この後は皆自由にしてていいよ。時間になったら一括帰れるようにするから。」

天球儀の中に入り、結界を展開する。奏汰の周りにも小さな玉がいくつも浮遊していた。それも小型の結界なのだ。
”世界”の真実を知ってもなお揺るがない”珪砂”。”硝子”になる前の材料の名を付けられた彼等こそ一番強く美しいのだろう。
あんずに寄り添う零とレオ。少し離れたところに司と真緒が、困ったような嬉しそうな複雑な顔をしている。その2人の横には補佐の3人。

「あの3人は三角カップルで落ち着いたんだ。」
「互いに子を1人作ってますしね。」
「あれ見てわかっただろ?うちの2人は目に見えて異常だって。」
「どっちも奇人ですけどそこ歪んでないですね。」
「凛月先輩と刹那お姉さまはそんなにおかしい……ですね。」
「紛う事なきだな。」
「あ、でも。あんずさん達観してないのに大人だ。刹那さんが言ったのはこういうことか。」
「可愛げのある大人になって、まだ可愛がってもらいます!」

「平和だねぇ。は〜くん。」
「はい、凛月様。」




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