み切った青。視界の端に揺れる緑。
ざわざわと葉が擦れあう音に、綺麗な木漏れ日。髪を揺らす風。

1000年以上生きてきて不変のものである。

日陰に座り込み、木に凭れ掛かった刹那の膝には人の頭。サラサラの黒い髪が肌を擽る。
あどけない寝顔を晒す彼の頭をそっと撫でた。

この光景も不変であると言えるだろう。
いや、少し違うか。刹那と彼が出会ってから、が正しい。



―――――夢ノ咲学院。
特殊な学校に刹那と彼は通い、日々を過ごしている。ここにいるだけで”赤服”に襲われることは減った。生徒でいるだけでまるで普通の人間のように平穏に過ごせる。

”世界”にこの日本が監視されて何千年経っただろうか。常に監視されていると感じることにより犯罪は急激に減った。そういう邪な気持ちが抑制されると聞いたことがあるが、まあおおよそ事実だろう。
誰もが平和に過ごせるはずのこの日本でも、命の危険を抱え生きてる人も少数いる。

―――”硝子”。
そう呼ばれる”カルマ”を背負った人間のことだ。記憶を持ち、何度も生を繰り返している。他にも魔力の覚醒が起こり、魔法が使える様になったり。
魔力は皆一様に持っているものだが覚醒させなければ使えない。
”硝子”は初めての繰り返しの際にそれを覚醒させる。

―――――刹那や、今膝にいる彼もそうだ。
この学院にも数人いる。刹那たち”硝子”はその力故に求められることが多い。
同じくらい危険視されているが。


ふと、膝の彼がもぞもぞと動き出した。珍しく早いお目覚めである。
刹那は手に持っていた革張りの本を閉じて、顔を覗き込む。ブラッドルビーが眠そうに、ゆっくりと目線を合わせた。

「おはよう、凛月。」

そう声をかけると凛月は起き上がり、なおぼーっとした目で刹那を見つめた。

「…んぅ〜……?……おはよ……。」
「随分早く起きたんだね。いつもならまだ寝てるのに。」
「ふぁ、ふ……。たまにはねぇ…。今何時ぃ〜?」

ようやく頭が冴えてきたのか、目が開きだす。刹那はその問いかけに携帯を確認し答えを返した。

「12時ちょっと過ぎかな。昼休み。」
「刹那いるし、ご飯食べるかなぁ〜。」

そう言って立ち上がると凛月は刹那に「ん」と手を伸ばした。刹那は嬉しそうに微笑み本を鞄にしまって手を取る。同時にぐっと引かれ彼の体に飛び込んだ。

――――あぁ、幸せだ。

凛月の体温、心臓の音がダイレクトに伝わりその思いが増す。
永い事共に生きてきても変わらないそれ。
血が疼く。彼と混ざり合った血が。
喜びが熱に変換されていくようだ。
そんな刹那の変化に気が付いたのか凛月はおでこを合わせた。凛月の瞳と刹那の瞳がほぼゼロ距離で重なる。
ブラッドルビーの奥に秘められた熱は、今まさに刹那が感じている熱と同じものだった。凛月は綺麗にその瞳を細めて、おでこを離す。

「どれだけ経っても可愛い反応するよねぇ…。」
「しょうがなくない?熱はこの先も冷めやらないよ。でも、やっぱり凛月の瞳は綺麗だね。
食べてしまいたいよ。」

ふふ、と刹那は言葉に似合わないような綺麗な笑い方をした。凛月は「刹那が見えなくなるから困るなぁ。」と満更でもないような返し。さながら本当に取られても構わないような、狂気すら感じる。
しかし、これがこの二人の日常だ。
周りは彼らの発言に目を白黒させ、真偽を問うことも。でも皆感じるのだ。彼らの眼はまるで冗談じゃない。本当にそうしたい、そうなってもいい。背筋に悪寒が走るような、そんな錯覚に陥るほど。
彼はそっと刹那の手を取った。姫に王子がするようにその手の甲に口付けた。
――――正確には薬指を。
そのまま手を引いてガーデンテラスに足を向けたのだった。




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