春の嵐の中で

 元々人付き合いというものが苦手だった。自分以外の他者と慣れ合うことが私にとっては酷く難解で、無意味で、面倒なことに思えた。そうやって人から逃げるようにして生きてきた。今更この生き方は変えられない。
 そんな卑屈で臆病で社会性のない、どうしようもない私の灰色に満ちた世界を彩ってくれた人が居る。まさに、世界を変えた。強くて輝かしくて手が届かないくらい遠い所にいる人。その人が私のところまでわざわざ降りてきて、手を、蜘蛛の糸を差し伸べてくれた。その人が私に求めたのは私の才能。私はこの人のために才能を振るおうと、この人だけを想って生きていこうと誓った。

「ハハハっ…」

 鏡の中にいるのは、醜い私。私に純白なんて似合わない。似合わな過ぎて、びっくりして、思わず乾いた笑いが飛び出す。だって、ねえ?私はこんなにも汚れている。何にも染まっていない、なんてことはないのだから。他の色が入らないくらい醜い色に染まり切ったのが、私なのだから。
 耐え切れなくなって、春の嵐に飛び出した。雷が鳴っていて、粒の大きい雨が打ち付けて、ごうごう風が唸って。ウェディングドレスに、ぐしゃぐしゃになった髪やメイク、おまけにはだし。おセンチなことをしている自覚はあるけれど、このまま消えてしまいたいと思ったら、足が止まらなかった。

 ザァーザァー激しさを増す雨の中、たどり着いた公園の東屋の中。屋根がついているとはいえ、この横殴りの雨は防げない。その中に大きな体躯の青年たちが、顔を青白くさせて身を寄せ合ってそこにいた。奇妙な光景だ。止まらなかった私の足は勝手に止まった。しばらくお互いが呆然と見つめ合っていた。

「ウチくる?」

 そう言った。この様子では迷子でも、家出でもないのだろう。事情を聴くのはお互いタブーというもの。しいて言うなら、魔が差した。私を救ってくれたあの人のように、私も誰かを救ってみようかと。自分に余裕のない時にやるなって思うけど、まあ、そういう気分になったのだからしょうがない。
 カルガモの子みたいに、私の後を大人しくついてくる私より大きな子供たち。素直で従順で無垢で、可愛らしい。この子たちの保護者として、私がしっかりしないと。そう思うことは現実逃避だったのかもしれない。だけどそれが私の心を軽くして、生きるための活力になった。

 これは、汚れた大人の私と 真っ白な5人の青年たちの 奇妙で案外ピュアな物語。
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