「そうだな、束縛する人がタイプかな」


これは去年のお花見会で見事ロミオを演じてみせた生徒会副会長を務める彼、佐伯虎次郎がクラスの女子に好みのタイプを聞かれた際に放った爆弾発言である。


顔は良いわ性格も良い、勉強も出来て運動神経バツグン、おまけに面倒見の良い彼は六角中の王子様だ。そんな彼の意外な好みのタイプにその場にいたクラスメイトの視線が一斉にそちらへ向いた。

「…へ、へぇ意外だね」

佐伯に好みのタイプを聞いた張本人は、予想もしない返答に顔を引きつらせつつそう言った。ついでにクラス中を見回せば、男子も女子も苦笑い。「そう?」なんて言いながら笑っているのは佐伯ぐらいだ。

私も、だよなあと心の中でクラスメイトに同意する。正直言って私も引いた。

「…だから、さ」
「ん?」
「束縛、してよ」
「…はあ!?」

にこにこ。そんな音でも聞こえそうな笑みを浮かべて、佐伯は私に向かってそう言った。

「え、2人ってもしかして…」

誰かの呟きによって、教室がざわつく。

バカ、なんでそんなこと言うんだよ。こんなふうに騒がれるのが嫌だったから、私たちが付き合っていることは内緒にしようって言ったのに。いとも簡単に佐伯はその約束を破った。

「俺が女子と話してても全然嫉妬とかしてくれないじゃないか。俺としては、してくれると嬉しいんだけど」

だってそれは。
佐伯は先程述べたように王子様のような存在で、女子の人気者なのだ。だから女子に絡まれても仕方ないことだと思うし、いちいち嫉妬なんてしてたらキリがないじゃないか。それに――

「…嫉妬とか束縛はしないけど、ちゃんと好き、だからっ」

束縛されたいだなんて正直言って、引く。それは本当。束縛してって言われるのもちょっと困る。だけど、佐伯のことが好きだという気持ちは変わらない。



ひゅーひゅー、と男子たちがお決まりの冷やかしをしたことで急に恥ずかしさが込み上げた私は、慌てて教室を飛び出そうとした、けど。腕も足も私より断然長い佐伯にあっさりと捕まり、後ろから抱きしめられてしまった。きゃあ、という女子の声が後ろから聞こえた。

「ちょっ、離し…」
「だーめ。もう、本当可愛すぎ。俺が束縛したくなっちゃうよ」
「……え」

ちょっと待て。またもや爆弾を落とした佐伯の腕の中からなんとか逃げ出したはいいが、佐伯はにこにこ。クラスメイトはニヤニヤ。なんだこれ、もう嫌だこのクラス。





結局、佐伯は次の日から宣言通り、私をフリーにしてくれなくなったので隠していた私たちの関係はすぐに学校中に知れ渡ることになり、後々に六角の公認カップルになるのだけれど、それはまた別のお話ということで。


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逆に」に提出させていただきました。

(2011/10/27)