9月第2木曜日
Reo Sano
ぶっちゃけ、今日の飲み会は何で俺?って。
前にジェネが仕事した人の新しい会社の同僚らしいけど、別に今はそこと仕事してるわけでも無いのに。
海外資本の会社らしいし、上がビジネスを広げる為にセッティングしたんだろうか??
だとしたら俺じゃなくて涼太くんとかじゃないの?って。
まぁ、チーフから、全然かしこまった席でも無いしただ楽しい飯会だと思って参加しろよって言われたってことは、俺のそんな気持ちも察してた上でだろうけど。
龍友くんの打ち合わせが長引いたのと道が混んでたので予定より遅れて通された個室には、2人の日本人と、外国の人が4人。
前に仕事をしたジェシー(だっけか?)以外は初めて会う人。
やっぱり慣れないシチュエーションにテンション上がんない。
自己紹介の前に龍友くんと日本人の女のヒトが何か偶然の再会?になって、わけわかんない感じでスタートした。
至る所で英語が飛び交ってるし、亜嵐くんは外国の人と英語でコミュニケーション取って楽しそう。
龍友くんもお酒が入って日本人男性と打ち解けて楽しそう。
時々話を振られるけど、答えて終わり。
英語の会話は最初こそ話の内容を理解しようとしてたけど、すぐにめんどくなって諦めた。
「藤澤さん、留学してたの?」
『大学の時に1年くらいスペインに行ってましたよ。』
「え、何でスペインなんすか?」
『私当時は建築に興味あって。それでちょっと行ってみよーって。』
「スペインって英語じゃないでしょ?どうやって英語を身につけたの?」
『駅前留学と、スペインで知り合ったアメリカ人とかカナダ人とかととにかく会話しまくりました。』
「駅前留学て!」
チーフと龍友くんと藤澤サンが話してるのを何となく聞きながら
目の前の料理を頬張る。
スペインの留学話を興味津々に質問してる2人へ、藤澤サンの返答は何かちょっと変わってて。
変な人だというのが最初の印象。
『玲於くん、食べ物もっと頼む?』
「え、あ、はい。」
『亮平、そこのメニュー取ってくれん?』
「おう。あ、ドリンクメニューも要る?」
『…えっと、要る?』
「…っす。」
「はは、ハイ、玲於くん。」
「…っす。」
食べ物がある程度無くなって手持ち無沙汰になってきた頃、それまで他と話してた藤澤サンが俺に振ってきた。
食べたいもの飲みたいものを言うと、亮平さんが店員さんに注文をしてくれて、それから亮平さんは俺と色んな話をした。
そのうち何となくこの人たちに興味が湧いて、2人の会話や行動を意識していると、同僚や俺たちにとても気を配っている事がわかる。
特に藤澤サン。
龍友くんとは関西弁丸出しでしゃべってるけど、チーフにはちゃんと敬語。
同僚のほとんど日本語が話せないやつには通訳したりコミュニケーションを取っていて、亜嵐くんにも英語で話しかけて”あ!間違えた!”とかチョケている。
単純に凄いと思った。
だから亮平さんに藤澤サンて凄い人なんすか?って聞いたら、シニアディレクターでチームをまとめていて仕事人間だとか色々。
いや、役職のこと聞いたんじゃ無いんだけどさ。
それにしても全然そんな地位のある人な感じがしないのは何でだろう。
亮平さんにおちょくられまくってるし。もしかしてこの2人付き合ってんの?
って思ったから聞いてみたけど、そうじゃないらしい。
…あれ、今この空間居心地がいいじゃん。
そう気づいてからは、楽しくなった。
この人たちの会社にも興味が出たし、頭が英語の会話を拾い出したし。
お酒もうまいし、飯もうまい。
『お、玲於くんそれ美味しいん?』
「そっすね。食ってみます?」
『いや、もうお腹いっぱい。 美味しそうにしてたから聞いてみただけ。今度食べることにするわぁ』
”今度”
…藤澤サンは今度また誰かとここに来た時に食べるということ。
その誰か、は、俺じゃ無い。
きっとこの先藤澤サンと会う機会なんてほとんど無いんだろう。
それ、なんかやだわ。
こんな感じでまた飲みたい。
もっと色んな話を聞いてみたい。
俺の話も聞いてほしい。会話したい。
亮平さんみたいに、ふざけあってみたい。
そう思ったら、トイレに行った藤澤サンを追いかけてた。
…俺、こんな行動的だったっけ? こんなキャラじゃなくね?
って思うぐらい、藤澤サンとこれからも繋がってたくて、”これから”を手に入れることに成功した。
恋愛感情じゃ無い初めての気持ちが、俺の中をあったかくする。