10月第3土曜日

manager Ota





少し前から、龍友の調子が上がっていて。
歌もそうだけれど、どの現場でもどこか楽しそうにしてる。

最初は龍友の日課であり挑戦であるトレーニングが充実してる影響かとも思っていたけれど。



龍友と隼と玲於で飯に行った時に、偶然遭遇した一般企業に勤める女性が同じマンションの人だと聞いて、ピンときた。

龍友はこの人に出会ったから影響を受けているのだと。

龍友が無理矢理一緒に帰ると押し切って後部座席に二人が座っていたけど、会話の内容は正直これがタレントと一般人の会話か?男女の会話か?と耳を疑う意外なもので驚いた。

龍友が質問をして藤澤さんが答える会話が多かったけれど、龍友の質問の内容が仕事がどうだとか、それってどんな内容なのかとかか、生活リズムはどうやって作ってんのかとか…
関西弁同士の会話だし、料理の話になった時は、姉弟か?と思うほど。


でもその会話の中で、彼女はすごくしっかりしているのにユーモアのある女性だという印象で、龍友が懐くのは分かる気がすると感じた。

玲於もそうか。




その後、ライブに藤澤さんが来ると知ったとき、チーフから龍友は彼女と頻繁に会っているのか?と聞かれ、少なくとも龍友をどこか食事の席に送ったり迎えに行ったりはしていないと答える。
玲於のマネージャーも亜嵐のマネージャーも聞かれていた。


正直、龍友がマンションに着く前に窓から上を見上げているのは気づいていた。
自分の部屋の隣に、明かりがついているのか消えてるのか確かめているのかもしれないと思っていたけど。
龍友の片思いであれば、コソコソ外で女性と二人で会っている気配も無いし危険が無いのだから、報告する程の事でもないと結論付けた。
報告して、制され、龍友の調子が下がるのも良い判断とはいえない。






そして、日本から遠く離れたニューヨークで。

「太田さん、大事な話があるんですけど。」
「ん?」
「僕、とても大事な女性が出来ました。」
「…この前の藤澤さん?」
「えっ、あ、そうです。」


何でわかったのと言いたげ。
俺、龍友のマネージャーだぞ。



「告白しました。返事はもらっていませんが…。自分の置かれてる状況もわかってます。それでも、側に居て欲しい人なんです。」
「…うん。」
「それで…彼女も今、ニューヨークに仕事で来てて。会いたいんです。もちろん周囲に気をつけます。会ってきてもいいですか?」




ここは日本じゃない。
何か起こってからではどうしようもない。


「龍友の気持ちはわかったよ。チーフに確認しよう。もちろん、俺も協力するから。」
「…はい。」
「こうやって報告してきたってことは、龍友もちゃんとリスクを考えてのことだろうし。」
「…いや、ぶっちゃけ…最初は嘘ついて出る気でいました。」
「え?」
「それをダメだと言ったのが彼女なんです。」
「えっ?」
「僕に何かあったらどうするんだって。会社の人が困るだろうって。」
「…そっか。」
「お願いします。彼女に会わせてください。」




それからチーフに言いに行って、案の定大反対されたけれど。
龍友もここまで腹をくくっていたら引き下がらない。
結果、妥協案として俺が一緒に居るということで、ホテル周辺から移動しないということで、オッケーが出た。

チーフは俺に彼女を遠ざけたいと言ったけど、ここまで腹を括った龍友に小細工は逆効果だと伝えて。



龍友は彼女を1人でこちらに来てもらうのは危ないと主張していたけれど、俺らが守るべきは龍友だ。














『龍友くんに近しい方が、それで怒られて仕事の評価を下げて欲しく無いんです。』



こんな人、他には居ない。



頭の良い人
明るい人
自然体でタフな人
正直な人
そして、周りの人に対してきちんと気配りもできる心優しい人



龍友が本気で側にいたいと選んだ女性は、変わってると思うほど素晴らしい人だった。





「HIROさんなら、きっと龍友の気持ちも汲んでくれるよ。」
「そうやといいんですけど。」


眠そうにしてた時間もあったけど、気が満ちて溌剌に動いている龍友に事情を知ってる俺は笑顔になる。



同時に会社公認になったら。龍友と藤澤さんのこと俺がしっかりサポートしたいと、心から思えた。

更新日:2017 11 21
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