「初めまして。花咲学園3年の日高真緒です。これから宜しくお願いします」
「えっ!?日高さん高校生だったの!?」
「言ってませんでしたっけ?」
「聞いてないです!保護者の方に連絡しないと…」
「私一人暮らしだったので大丈夫ですよ、連絡しなくて」
「でも…」
「私の方から連絡しておきますから」
渋るいづみを何とか説得させ、周りに目を向ける。ワイワイガヤガヤ、と言った様子で真緒に話しかけているのだろうが、如何せん騒がしすぎて何も聞こえない。
「みんな静かに!」
いづみの声にピタリと声が止む。まるで保育士さんだ、と内心思いながら真緒はもう一度頭を下げた。顔を上げると男の子と目が合う。どこかで見たような、と考えていると男の子が声を上げた。
「日高さん、だよね?」
「えっと…」
「あ、ごめんね。俺は佐久間咲也!日高さんと同じクラス、なんだけど…」
「ごめんなさい。覚えるのが苦手で…」
「ううん!気にしないで!これからよろしくね!」
「こちらこそ、よろしくね」
名前の通り花が咲くように笑う咲也に真緒の心がチクリと痛む。覚えるが苦手、なんて嘘。学校には興味が無いから行って、授業を受けて、帰るだけ。友人なんていないし、誰の名前も覚えていない。なんて言うわけにもいかず、真緒が咄嗟に吐いた嘘だった。
「自己紹介は各自後でちゃんとすること!じゃあ、部屋に案内しますね」
「私の方が年下なので敬語じゃなくていいですよ。いづみさん」
「そう、だよね。なんか日高さん大人っぽいからつい…」
「あと、名前で呼んでください。名字、あまり好きじゃないので」
あはは、と笑ういづみに真緒が笑い返す。貼り付けた笑顔の仮面に気づく人など誰もいないと、そう思っていたはずだった。
2017/08/11 執筆