「出水!辞書貸して!」
「はぁ?またかよ…」



バタバタと走って出水の教室に来た梓はお決まりのセリフを吐いた。



「昨日も忘れてたじゃねぇか」
「違うの!電池入れるの忘れたの!」
「それ、昨日も聞いた」
「うー…」



2日に1回のペースで何かと忘れ物をする梓は必ず出水のところに借りにくる。もちろん、梓に好意を寄せる出水としては悪い気はしない。



「ったく、ほら」
「ありがとー!」



なんだかんだと言いながら貸してしまう自分に惚れた弱みだと内心苦笑いの出水。次の休み時間に返しに来るね、と言い自分のクラスに戻っていく梓を見送り、自分の席についた。



「出水ー!」
「はぁ…今度はなんだよ…」
「体育着忘れた!」
「はぁ!?」
「貸して!」
「いや、おま、それは…」


ある時、またいつものように走ってきた梓の予想の斜め上を行く答えに思わず大声が出た。



「俺さっき体育だったんだけど」
「?知ってるよ?」
「嫌だろ?1回着てんだから」
「出水のなら別にいいけど」
「は!?」



遠回しに断ろうとする出水にしれっと言い放った梓の一言は出水の思考回路を停止させた。



「出水だったら、いいよ?」



少し頬を赤くしながら言う梓に出水の顔も赤くなる。



「梓、」



この後、出水の体育着を着て体育を受けた梓と体育着を貸した出水がお互いそれぞれの友達にからかわれるのはまた別のお話。


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