6-2

「絹…お母さん、ただいま」
「お帰り夏美。遅かったね」
「うん…ちょっと仕事してて。それより体痛いところとかない?」
「大丈夫よ」

そう言って絹江はニコニコと笑った。見ず知らずのみょうじのことを”夏美”と呼び、今まで大切に育ててきた藍沢に”初めまして”と言った。本来はみょうじがいるべきでない席に座っている…複雑な気持ちになりもやもやしているとそれが絹江に伝わってしまったのかみょうじの頬にそっと手を添えた。

「どうしたの?悲しいことがあったの?」
「…知り合いの話なんだけどね、大切な人がけがをしちゃってそのショックでその人のことを忘れちゃって、見ず知らずの人を知り合いに重ね合わせてるの…それで、私なんて言えばいいか…」
「…夏美、泣かないで。お母さん悲しくなるわ」
「泣いてない…泣いてないよ、お母さん」

みょうじの言葉は本当だった。頬に涙は伝っていないし目も潤んでいない、それなのに絹江はみょうじのことを”泣いている”と言った。

「あなたはあの子にそっくりね」
「あの子…?」
「耕作にそっくり」
「…耕作?」

#nmae1#は耕作と言われても誰の事かわからなかった。「そっか…」と返して当たり障りない会話を続けた。夏美として、ボロが出ないように…。

―――
――


「#nmae#も大変だったわね。」
「え?」
「藍沢先生の祖母の事よ。夏美って方に間違われてるんですって?」
「はい。早く思い出してくれるといいんですが…」
「認知症か…まだ初期段階と聞いてたから今が一番大切な時だな」
「なまえは不在だし黒魔術がどうのとか言われて大変だったんだよー…」
「ご、ごめんなさい」
「なまえの方も大変だったんだから仕方ないでしょう」

うっ、と犬山は声を漏らしパタンと机に倒れた、しばらく動かないでいたのであきれた葉山がポンっと頭を叩き「早く終わらせろよー」といい犬山は「はーい」と半泣きで答えた。
みょうじはさっさと終わらせて絹江の様子を見てこようと思った。