魔術師の掟



右か左かなんて錯覚だ。白粉をまぶした間抜け面の道化はそう言った。世界には何もない。特に区別はどこを探してもない。食器棚の奥とか、スポットライトの下とか、電信柱の陰とか、お手玉の中にもない。
うれうれと、駄弁な調子で、道化は狂ったように笑っている。それは演技なのか、それとも真症なのか?狒々色に彩られたグロテスクな唇は巨悪な溝のように横に裂けていて、どこまでもどこまでも、際限のない混沌の魔窟である。なんだか静脈血みたいじゃないか。
指を差したら、道化は心臓の上を両手で押さえて、ケタケタ笑いながら玉から落ちた。



2018/02/04
prev | cover | next