契愛


 脳髄が溶けそうな甘い匂いが室内を満たす。香だろうか、独特の煙と共に蔓延するそれは思考回路を鈍らせ意識をぼんやりとさせる。リドルは微睡みとも現とも付かぬ混濁した意識の中で、自らの身体を覆う白い衣を一枚ずつ順に寝台の畳へと落として下の薄い数枚だけにして落とした着物の上へと膝を付いた。シイナはリドルの正面に座り込み、重たい着物の下からじっと眼前の美少年を見詰めている。何処か虚ろな視線だった。リドルに至っては感情の揺らぎもないのにその瞳は赤々とした灼熱の色を宿していて、感情の削げ落ちた無表情に反して余りにも力強い。
 無造作に片手を伸ばして、シイナが頭に被る白い布――――角隠しをそっと床に落とす。隠されていたシイナの面立ちは未だ発展途上の、しかしそれが故に醸し出される奇妙に匂い立つような色香に満ち溢れていて、リドルの中心を波立たせる。赤々と引かれた唇の紅は、どうにもこうにもリドルの瞳を真似たように美しかった。施されている化粧は余り派手な色が使われておらず、唯一鮮烈な色彩を持つ紅が自分の色に合わせられていることなど手に取るように分かった。角隠しを落とした指先が宙を踊って、シイナの唇をなぞり紅を掬う。白い指腹に移った赤を持ち上げ、自らの唇へと這わせる。紅で彩られたその唇は、白い着物……シイナと揃いの白無垢と相まって、他の何にも例えようもなく美しい。それは性別を超えた美しさだった。


 赤を残したリドルの指先が、シイナの顎を掴む。重ねられた唇は少し冷たくて、そっと合わせ目をなぞる舌先はヘビのように這いずる。シイナは大人しく舌先を受け入れて唇を開き、咥内へと侵入してくるそれを自らの舌で絡め取って水音を立てた。きっちりと着込まれたシイナの白無垢が、口付けの合間に静かに乱されて一枚ずつ落とされていく。先に下敷きになったリドルのものと重なって、辺りが白で埋め尽くされていく。物音一つない静寂の中では、衣擦れの音も、吐息も、舌を交わす水音も、何もかもが酷く明瞭に聞こえた。ずぐり、と、身体の中心が疼いて焦れる。重なり合った唇の隙間から熱い吐息が漏れて、堪らなくこの身体が欲しいと思った。
 そっとリドルの指先が伸ばされて、シイナの着物の中へと滑り込まされる。すべらかな指腹が身体の線を這いずって、下着の無い素肌をなぞりそっと怯えさせないように胸を掴む。さらしを軽く巻いてしまえば簡単に隠れてしまいそうな慎ましやかな膨らみは簡単に手の内に収まって、加えられる力に従って健気に揺らいだ。

「っ、……はぁ、」

 紅に濡れた唇が熱っぽい吐息を漏らす。零れ落ちるその息すら勿体無いとでも言うように、リドルの唇がシイナのそれを塞ぐ。吐息ごと呑み込み、くぐもった嬌声が奇妙なまでに艶っぽくて、もっと鳴かせたいとばかりに歯列をなぞって自らの唾液を咥内へと流し込む。飲み込むまで離さないとばかりにぴたりと唇同士を張り付け、同時に肌を這っていた指先で胸の突起を弾いて転がした。びく、と、シイナの身体が大きく跳ねる。ほとんど衝動的に逃れようとする動きを抑え込んで、幾重にも折り重なった白無垢の上にシイナの身体を引き倒し、華奢な身体の上へと乗りかかる。身近な黒髪が背後の白に散って何だか堪らない気持ちになる。例えば、今すぐその身を暴いて喰らい尽くしてしまいたい、と思うような――――いっそ、体内の全てを喰らって代わりに自分を詰め込んでしまいたい、とさえ感じるような。くらり、と、視界が酩酊する。

 シイナの身体なんて全部憶えている。手のひら、指先、手首、首、腕、肩、胸、腹、脚、膣、子宮――――シイナの女の姿なんて、全部脳裏に思い描ける。嗚呼、欲しい、腹の中まで全部自分を押し込んで、白で満たして、溢れるくらい、注いでやりたい。この胎を支配して、自らの種を芽吹かせたい。最早暴力のような衝動に突き動かされ、指先を太腿に伝わせ重なった着物の奥に秘められた其処を暴く。とろりと指先を汚した蜜が指先だけに留まらず太腿にまで垂れたのを悟ってそっと掬い、幾度も押し入った場所へ指先を入れた。柔らかくて熱い蜜壺の中をくまなく擦り、知り尽くした弱い場所だけを集中的に爪先で押す。数度押して擦ってやれば、眼下の少女は小さく震えて声を押し殺し、そのまま数度身を捩って声も出さずに静かに果てた。

「……っ、は…、は、ぁ……」

 はふりと荒くなった呼吸を逃し、大きく肩を揺らす。ゆっくりと開かれたシイナの黒い瞳は赤く色づいてさえ見えるような欲に染まって、視線を合わせたリドルの中枢を射抜く。嗚呼無理だ、と思った。
 その瞬間、リドルはほとんど衝動的にシイナの脚を開かせて合間に押し入り、蕩けた秘部を開かせ着物の間から自身を押し当てた。ぐ、と先端が入り込んで、粘着質な水音が静寂に反響する。あえやかな嬌声がかぼそく零れて、それを合図にしたように一気に突き上げた。


「っ……、ァ、ひぁ…!」
「ん、ッ……、!」
 きつく、きつく、張り詰めた自身を締め付ける胎内の熱さに、そしてひくついた膣内を擦り上げる自身の大きさに、共に呼吸を止めて声を漏らした。嗚呼、気持ちいい、気持ちいい。僅かに汗ばんだリドルの背へと両腕を回す。シイナが掴んだことで着物が擦れて片肩からずり落ち、暗闇に映える白皙にちかりと視界が瞬いた。嗚呼、うつくしい。真っ白で、何処か少しだけ青白くて、現実味のないその肌は白蛇の鱗みたいだ。瞳孔の細い彼の瞳は、改めて見て見れば確かに、蛇にも似ている。そう思うと、何だか人ではない何かに抱かれているような気さえして、シイナは無意識に彼の肩へと額を擦り付けた。

「は、やく……っ」

 もっと、早く、ずっと奥。身体の奥底、人体の神秘を――――繁殖を司る其処を、侵して踏み入って奪い上げて欲しい。他の誰でもない、彼だけに、喰らい尽くしてほしい。そんな欲望が胎を突き破って出てくるような気がして全身でしがみ付く。応えるように、リドルはその体躯を抱きしめてもうこれ以上は入れないほど深く自身を沈めた。欲しい、と思う。この身体が、この存在が、この生命が、この胎が――――早く"僕を孕んでほしい"と、願うと言うには余りに貪欲に、求めた。
「早く、シイナ……!」
 頭の中が真っ白になって、嗚呼もう何も考えられない。眼下の腹を自らの白で満たし尽すことにしか、意識が動かない。熱の篭った律動を幾度も繰り返し、もう息も出来ないほど強く自身を打ち付けて、幾度も達して、小さなその子宮を願い通り己の精で溢れさせた。


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