いつまでたってもひとりでなけないあなたに泣く理由はわたしが作ってあげるから



※カラ松事変ネタ







ボロボロになったカラ松が私の家に遊びに来た。いや、本人は遊びに来たって言ってるけどきっともっと別の理由で来たに違いない。それには十中八九彼のひどい怪我が絡んでいることだろう。問いただしたい気持ちはやまやまだが、カラ松はきっと口を割らないだろうから何も言わずにお茶をいれてやろう。

「カラ松、オレンジジュースしかないけどいい?」
「ン〜?ブラックコーヒーはないのかい?ちよこ〜?」
「あるけどあんた飲めないでしょ?」
「え、いや、」
「残したらケツバットするよ。」
「オレンジジュースでお願いします。」

こんな時でも彼はかっこつけようとする。腕は上手に動かないのにサングラスかけようとするし。案の定うまくかからなくてズレてるし。「ズレてるからかっこ悪い」ってそのまま言ったらカラ松はすぐにサングラスを外して放り投げた。サングラスはカシャンと音を立てて部屋の隅に転がる。どうせあとから拾うくせになんでめんどくさいことするんだろ。でもまぁ本人は満足そうだしいいか。

「おぉ、禁断の果実まで……!!」
「うん、梨だからね。」
「うまい!」
「んー、よかった。」

自由がきく方の手で梨を頬張るカラ松。私はそれを頬ずえをつきながらじーっと見る。カラ松は本当に美味しそうに食べる。もっしゃもっしゃと梨を恐ろしい勢いでたいらげてあっという間にお皿は空っぽになった。カラ松が皿に爪楊枝を置くと、私はそれを台所に片付ける。

「片付けさせてしまってすまないな。ありがとう。」
「何いってんのよ。私の家にカラ松が遊びに来てるんだからおもてなしは当たり前。」
「はは、そうだな。」

ニッと口を開けて笑ったカラ松だけど、その笑顔は誰が見ても分かるくらい引きつっていた。無理しているのがバレバレだ。

「カラ松、一松の猫見つかったの?」
「……あぁ、そのようだ。」
「そう、……あんたの兄弟みんな私の家に来たんだよ、"猫来てないか"って。」
「一松の愛しのニャンコだからな。みんな必死だったんだろう。」
「そうね。……ねぇ、晩ご飯も食べてく?」
「……あぁ、そうさせてもらう。」

何が愛しのニャンコよ。そんなに苦しそうに笑わなくていいのに。でも、カラ松がこんなに泣きそうなのは兄弟が何かしら絡んでいることが決定的になった。いつもなら晩ご飯に誘うと「ブラザーたちも呼ぼうじゃないか。パーリーナイトにしようぜ。」なんて言い出すのに今日は皆のところに帰ろうとする素振りを見せるどころか兄弟たちの話題を避けているように見えた。

晩ご飯の時もそんな感じだった。テレビを見ても微笑む程度。いつもみたいな痛い言葉なんて全然使わないしそれ以前に話さない。時々傷口をさするのが少し痛々しかった。

カラ松はよく一松とかにいじられて涙目になる。たまに泣いたりする。だけどほんとに弱ったところは他人に見せようとしない。泣くけど愚痴らない。兄弟や家族、友達や幼なじみが好きな彼は嘘でも傷つけるようなことは言わないししない。(彼もクズ兄弟の1員だから例外はあるけど。)特に兄弟に関してはすべてを笑って許す。だから私は心配なのだ。彼は一体どこでストレスを解消しているのか。彼は誰に不満を聞いてもらってるのか。……いくら優しくても人間なのだ。負の感情は存在する。私はそれを吐き出さない彼が心配でならない。

「カラ松、包帯ずれてる。」
「あ、本当だ……」
「直してあげる。」

食後、ソファーにちょこんと座る彼の腕の包帯が若干たるんでいた。私は彼の包帯を掴んでキュ、とキツめに締めた。

「あ、ごめんカラ松。キツく締めすぎたかも。」
「全くだぜちよこ。少し痛いぞ。」
「ごめん、痛くてこれはないちゃうかもね。」
「あぁ、」
「私だったらきっと痛くて泣いちゃう。」
「っ、ああ、」
「ごめんね。」
「っ、ちよこ、」
「ごめんね、カラ松。痛かったね。泣いていいよ。ごめんね。」

彼の包帯を少し緩めてくくった後、ぽんぽんと背中を撫でると、カラ松は我慢していたであろう透明で大きな雫を一気にポロポロとこぼし始めた。私のお腹に顔を埋めながらわんわん泣くカラ松はまるで子供みたいだ。
本当は泣きたいくせに格好がつかないからって泣いてくれない。でも、どうしてもそんな意地を張りきれなくなったときにカラ松は私のところにこうして来るのだ。だから、私が泣く理由を作ってあげる。彼の逃げ道を作ってあげる。

人一倍兄弟想いで、兄弟からも愛されているのに彼は不憫な立ち位置なんてどうしようもない。
私は呆れたように少し笑った後、泣きつかれて眠ったカラ松の背中を撫でた。

いつまでたってもひとりでなけないあなたに泣く理由はわたしが作ってあげるから





松野兄弟は大切なものがなくなるとすぐに幼馴染みの私の家にやってくる。トト子のところに行ったりもしていたけどキツイパンチと共に追い返されるから最近はほとんど行ってないようだ。

話を戻すと幼い頃から彼らはそうだった。例えばおそ松の大切な鉛筆がなったとなると兄弟総出で探す。そして何故か関係のない私の家にめんどくさいことにひとりずつやってくるのだ。つまり、「知らないよ。」という答えをわざわざ6回も返さなければいけない。めんどくさいこと極まりない。

今日の一松の猫もそうだ。1人ずつではなかったけど家にきた。昔から、性格の根本は彼らはちっとも変わってない。だから、カラ松はもしかしたら自分は嫌われてるって思ってるかもしれないけど、全然そんなことはないのだ。昔から不器用ながら彼らはお互いを大切にしてきたんだから。嫌われてたら不憫な扱いであっても構ってなんてくれないだろう。特にカラ松への当たりがキツイ一松だってほんとに嫌いな人と関わったりなんてしない。好きの反対は無関心なのだから。


深夜1時前、外からはなにやら騒がしい声が聞こえる。


「あー、カラ松連絡くらいよこせよなー。お兄ちゃん心配しちゃうだろー。」
「おそ松兄さん心配しすぎ。カラ松も大人なんだから大丈夫に決まってんでしょ。」
「……そう言うチョロ松兄さんがカラ松カラ松って1番うるさかったけどね。」
「一松にーさんも心配してたよね!!!キョロキョロしてた!!!!」
「十四松兄さん、夜だからちょっと声抑えてね。ま、でも心配だよね。どっかでお金騙し取られてのたれ死んでたら困るし。」
「うっはー、うちの末っ子は言い方エグいねー。素直に心配って言えよな〜。スマホで知り合いに聞き回ってたクセに〜。」
「うるさいよおそ松兄さん。」
「トッティ!!!!」
「十四松兄さんもうるさいから!」

相変わらず賑やかだ。

頬に涙の跡を残すカラ松。今は悲しそうな不安そうな顔をしているけど、数秒後にはとびっきりの笑顔を私に向けてくれていることだろう。



呼び鈴を鳴らす音が我が家に響いた。



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title by.星食
20160803


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