07
泣いている最中、近くを通ったリンちゃんが異変に気付き公園まで連れだしてくれた。
「なまえちゃん、何があったの?」
「っ...あのっ...」
嗚咽ばかりで話もできない。そんな沈黙を破ってくれたのは相手だった
「やっぱりいいわ、話さなくて...無理に聞こうとなんてしないから、まずは落ち着きなさい」
「ごめっ...なさいっ..」
頭をぽんぽんっと撫でてあやしてくれる。あぁ、これ、龍也さんが何度もやってくれた。なんでこうも安心するんだろう
「リンちゃん...」
「なぁに?」
「今はまだ私に勇気がなくて言えないけど...いつか覚悟ができたらその時は聞いてくれる?」
「言いたくなったらでいいわよ♪」
「たくさん時間かけちゃうかもしれない、それでもいい?」
「もちろん!」
アイドルスマイルをくれたリンちゃん...いつもテレビで見ていたその笑顔が間近にあるのかと思うとちょっとドキッとした
「だいぶ落ち着いてきたみたいだし、撮影の準備しましょ」
「こんな顔で大丈夫かな...」
「あたしに任せなさいっ!」
泣きじゃくってぐちゃぐちゃになった顔を、見事にリンちゃんのメイク術で隠し、事務所に戻るとそこにはいつも通りの龍也さんがいて
「ほら、さっさと用意しろ」
「はい...龍也さん」
「なんだ?」
「私の話、いつか聞いてくれる?」
「あぁ、その時は飯でも連れてってやるよ」
また頭をぽんっと撫でられる
いつ覚悟ができるのかはわからない。でも、最悪の場合を考えて、慎重に言葉を選んでおかなければいけない。もし話したら...なんてことはその時にならないとわからないのだから今は止しておこう。こんなにたくさんの優しい人達を騙し続けることのないように、なんとかしなくては
「ねぇ龍也さん、何で私のマネージャーになってくれたの?」
「別に...そんなの理由なんてねぇよ」
気になったことを唐突に問えば、少し赤くなった表情に答えを期待して胸が高鳴る
「余計な心配すんな、俺が守ってやる」
(出会って間もないくせに、こんな感情を持つなんて)
今までは好きでもない男に抱かれてきた。それも全ては家に帰らないために、自分の今日の寝床を確保する為だけに。あんな家、二度と戻りたくない。でも、非行を続けてたくさんの人に迷惑もかけてきた、そんな私が人を好きになっていいわけがない...!
「なまえどうした?」
「なんでもないよ」
「言いたくなったら言えばいいからな」
この前のことを言っているんだろうか...その優しさに胸が熱くなる
「うんっ...!!」
「そうだ、今度お前に会わせたい奴らがいるんだ」
「どんな人?」
「安心しろ、年下だ。個性的な奴らだぜ」
何か思い出したように笑う彼を見ると、きっとその子達がとても大事な存在のように思える
「楽しみにしてるから」
釣られて私も笑ってしまった
これまでに味わえなかった普通の生活が、今はとても大切に思えた