15

去年の冬...その日は誰にも相手にされなかった。行き場を無くしてフラフラと冷たい雪の降る中、夜の街を歩き続けた。親からの連絡なんていつから来なくなっていたのかもわからない。もう何年も声を聞いていないけれど、それでも戻ろうなんて気は全く起きなかった


(どうせ私なんていらなかったのね)


人ごみの中立ち止まってみても、誰も振り返らない、道行く人は皆誰かのことを思って生きているのだろうか


「ねぇ君!!」


突然の声に振り返ってみると、スーツ姿の優男


「よかったらシャイニング事務所でモデルやってみない?」


この男が斉藤だった。何人もの人と身体を交えていたら顔も忘れてしまっていたらしい。行き場の無い私はここで何か変われるかもって期待していた






―「そこからは龍也さん知っての通り、この状況よ」

「そうか...」


本当は知られたくなかったけれど、いずれ分かってしまうことなら早く言ってしまえてよかったのかもしれない。でも彼の反応が怖くて、何も知らずに優しくしてくれた龍也さんが変わってしまうんじゃないかって不安で、今でも握られている手の震えが止まらない


「私...」

「もう何も言わなくていい...っ」


ふと龍也さんに抱きしめられる。彼の温もりが凍った心を溶かしてくれる気がした。身体を彼に委ねると、堪えていた涙が溢れ出る


「だって...、わた...し、汚いっ、からぁっ」

「お前は汚くなんてねぇよ。そんな涙流すやつが汚いわけないだろ」

「っ...うわあぁぁぁん」


子どもみたいに声を上げて泣くのは何年ぶりだろう。私は龍也さんの腕の中で声が枯れるまでずっと泣いた


それからどれだけ時間が過ぎたのだろうか、うっすらと外が明るくなってきている。泣き疲れていつの間にか寝てしまったのか、目が腫れているのがわかる。薄明かりの中目を開くと、知らない部屋のベッドに寝かされていた。目の前には龍也さんの顔。じっと見つめていると、ふと目が開かれる


「なまえ、起きてたのか...」

「今起きたの...あの、龍也さん」

「話の前に冷やすもん取ってくる、待ってろ」


ぽんぽんと頭を撫でてキッチンへと向かっていく彼を見つめ、寝起きでボーっとしていた頭が徐々に覚めていった。昨夜、自分の過去を話して、泣いて、抱きしめられているうちに寝てしまって...その後にここに運ばれたのだろうか。予想でしかないが、ここは龍也さんの部屋...?彼に迷惑しかかけていないどうしよう、と思っていると、タオルを手にした龍也さんが戻ってきた


「暗い顔してどうした?」

「あ...私、龍也さんに迷惑しかかけてないなって...ごめんなさい」

「俺は迷惑だなんて思っちゃいねぇよ」


その言葉に少しだけ安心する


「だが...もっと頼って欲しいとは思ってる」

「えっ...」


"頼って欲しい"なんて今まで男に散々言われてきた。けれどそれは己の欲望と私の身体のためで、彼のように重みを含んだ言葉ではなかった。正直驚いているけれど、これ以上龍也さんに迷惑をかけたくない


「でも私、もう一人で大丈夫だから...!」

「嘘つくな...こんな細い体で、何でもかんでも溜め込みやがって!...いつか壊れちまいそうで見てらんねぇよ。俺が...お前のこと守ってやる」

「どうして私なんかにそんなっ...!」







「お前のことが好きだからだ」