「はぁ〜.......またか」


"パパと旅行に行ってきます。一泊して帰ってくるから留守番よろしくね!ママより"

朝起きると机の上にいくらかのお金とメモが置いてあった。1年の内に何度かある両親の突然の旅行宣言、休日はどこも混むからと金曜から土曜にかけて出て行くのも恒例だ。こうして度々旅行に行く両親の仲は頗る良い、年頃の娘の前で普段から気にせずいちゃいちゃとするほどだ。本当にやめていただきたい


「1人なら赤葦くんに泊まって貰えば?」


そんな愚痴を美月に話していると耳を疑いたくなるような提案をされる


「無理に決まってるでしょ...!」

「だってもう付き合って2ヶ月?過ぎたよね、することしてんじゃないの」

「........」

「ごめんまだだったのか」


美月の言わんとすることを想像して顔が熱くなる。机にお弁当を広げていなければ突っ伏したい気分だ


「したくないの?」

「そういうんじゃないけど...部活忙しいし、そんな雰囲気になる機会もないし」

「じゃあ今日なんて丁度良いじゃない」

「でも、京治にだって予定とかあるだろうし」

「俺が何?」


思わず箸で掴んでいた卵焼きがポロリと落ちた。ぎこちなく首を動かし振り返ると、友達とお昼を済ませたであろう京治が立っていた


「い、いつから聞いてた.....?」

「今来たとこ。俺の予定が何って」

「赤葦くん!今日ね、なまえの両親が旅行に行っちゃって家に1人で怖いんだって!私用事あって泊まりに行けないから、もしよかったら行ってあげて」

「別にいいけど」

「よかったねなまえ!」


当事者をそっちのけで話して勝手に事が進んでいる...そして私が怖がっているなんて嘘はやめて欲しい。京治が泊まりに来るのは嫌ではないけれど、本当に良いのだろうか。そもそもいきなりこんな話をされて京治にとっては迷惑ではないのか


「け、京治...本当にいいの?」

「俺は別に大丈夫だけど...なまえのこと1人にさせる方が心配だから」


心配しなくていいよ、と頭を撫でられると美月に感謝しなくてはと心の底から思った。今度お礼にお昼奢ってあげよう...それから泊まりに来てくれる京治にも何かできればいいのだけど、


「あ、ご飯作ろうか?家で食べてから来る?」

「なまえ作れるの?」

「...味の保証はしないけど適度には」

「じゃあ...なまえの作った料理が食べたい」

「....うん!頑張る!」


こういうのをお家デートというのだろうか、帰る時間を気にしないで一緒にいられることがとても嬉しい。学校でも隣の席、部活も同じ、ほとんど同じ時間を過ごしてはいるけれど、彼氏彼女として過ごせているかと言われるとそうではない。滅多にない機会なんだ、と思うと自然と料理にも気合を入れようとやる気になる

(何を作ろうかな)

と浮かれていた私は、最初に危惧されていたことをもうすっかり忘れてしまっていた。それを思い出したのは部活終わりに買い物を済ませ、京治が家に来るのを待っていた時だった





2016.03.25