もうじき夏休みに差し掛かる頃、梟谷グループの合宿が開始される。先日配布されたプリントには見慣れない高校が加わっていた


「からす...の?」

「あぁ、その高校、なんか音駒と関わりあるらしいよ」

「そうなんだ!強いのかなぁ」

「黒尾さんは面白いコンビがいるとかって言ってたけど」

「...それは選手として?」

「そこまで聞いてない」


あの人のツボ浅いから面白がって言ってるだけかもしれないし、なんて面倒臭そうに呟く京治に確かに、と頷く。参加校が増えるということは、食事の用意や洗濯、ボトルの準備も量が増していくということだ。去年は慣れない作業に、自校ではなく音駒の手伝いを命じられたりと本当に大変だった


「今年は梟谷の近くにいたいな...」

「.......残念だけど、黒尾さんから指名きてるよ」

「私に拒否権は」

「ないね」


ですよね、わかっていたけどすごく嫌です。だって黒尾さんの何考えてるのかわからないところとか、威圧感とか本当に苦手なんです...と誰に言うわけでもなく理由を頭の中でつらつらと述べる。それに梟谷から離れてしまうのも寂しい


「俺も近くにいてほしいと思ってるけど、それもマネージャーの仕事だから頑張って」

「大丈夫、ちゃんと頑張るよ」

「それと...」


自主練の時間になったら一瞬にいて、なんて頭を撫でて甘やかされてしまったら私は頑張るという選択肢しか残らない

バスが着いた先は梟谷より幾分か涼しい場所だったが けれど、エアコンの効いた車内に比べれば夏の暑さがじんわりと肌に汗をかいていく


「おー、来たかフクロウ」


バスから荷物を降ろしていると、黒尾さんが孤爪くんと共にやってきた。どうやら音駒は先に着いていたようで、体育館までの案内を任されたらしい。木兎さんと話している黒尾さんを横目に、黙々と作業を続けていると後ろから声がかかる


「みょうじ久しぶり...ごめん、クロが」

「孤爪くん!赤葦から聞いたよ...まあ音駒はマネいないし、私でよければコキ使ってよ」

「赤葦、怒ってなかった?」

「え、なんで?」


聞き返した言葉になんでもない、と終わらせて孤爪くんは黒尾さんを置いて案内を始めた


これから暫くの間頭の中で切り替えをしなければいけない、最近慣れてきた呼び方に名残惜しく小さな声で話しかける


「京治、合宿頑張ろうね」

「あんまり無茶しないでね」




今年も夏が始まる




2016.04.01