第3体育館にいる、とLINEが入る。そのメッセージは30分ほど前に送られていたもので、もうやっていないかもしれない、と慌ててその場所へ向かう。近づけばボールの跳ねる音と木兎先輩の大きな声が聞こえてきて安心した
「京治...いる?」
「ん?なまえちゃん、え、今赤葦のこと...」
「なまえ、遅かったね」
「タオル干してたら意外と量があって時間かかっちゃった」
「お疲れ様」
「おいおい、無視してんじゃねーぞ」
「なんですか黒尾さん」
京治や木兎先輩と一緒にいたらしい黒尾さんは驚いた表情をしている。今日は他にもいて、リエーフくんや烏野の月島くん日向くんがいた
「いやいやなんですかじゃねぇだろ、なになまえちゃんと名前で呼び合ってんの?」
「黒尾知らなかったのか、こいつら付き合ってんだよ」
「なんだと!?既に付き合ってたのか!?」
確かに視線が怪しいと思ってたけど!お兄ちゃんそんなこと聞いてません!なんて兄ぶったことを言われても、だって言ってませんし、と反応するしかない
「なまえさんなんで言ってくれなかったんスかー!?」
「隠してた訳でもないけど...敢えて言わなくてもいいかなって」
冷やかされるの好きじゃないし、とリエーフくんに向けて言えばクソ真面目ですか!?なんて言われてしまう。そんなつもりではないのだけど側から見たらそう見えるものだろうか
「みょうじも部活中は名前で呼ばねーしなー。確かにクソ真面目だな!!」
ガハハと効果音がつきそうな顔で木兎先輩が笑う。ちゃんとケジメをつけたいだけです、と返事をしかったのにそれはもごもごと声にならなかった。びっくりして上を見ると、少しだけ怒ったような顔で京治が私の口を手で塞いでいる
「質問があるなら俺が全部答えますから。なまえのこと困らせないでもらえますか」
いつの間にか目まで覆われていた。抗議しようにも後ろから抱きつかれているような格好で、みんなの前で恥ずかしくてなにも声にならない。声の代わりにバシバシと覆われていた手を叩いてみるけれど、なかなかどかしてくれそうにない
「おー怖っ」
「赤葦さんて意外と独占欲強いんスね」
「誰にも渡す気がないからね」
「......みょうじさん大変そうですね」
黒尾さんが怖がっている割に楽しそうな声を出す。リエーフくんの言葉に京治がさらりと恥ずかしいことを言い自分でも顔が赤くなるのがわかった。大変そうだってわかるなら助けてくれないかな、月島くん
「なまえ、もう少しで終わるから待ってて」
返事の代わりにこくこくと頷けば漸く解放される。体育館の電気が少しだけ眩しかった。みんなの視線から隠れるように得点台の後ろに回れば京治がしたり顔でこっちを見ていて、私は顔を赤くしながら睨み返した
「で...さっきからずっと固まってる日向はどうしたワケ?」
「はっ!?あ、え、みょうじさんが、なんて言うか...女の子なんだなあって思って...!」
「お前の目には男に見えてるの?」
「いや違っ、そうじゃなくて!!」
日向くんが月島くんに揶揄われあわあわと話し出す。何を言われるのかと一瞬どきりとした
「みょうじさんこの前話した時はすげぇ頼れるマネージャーって感じだったんスけど、あか、赤葦さんの前だと、すごく小さくて、可愛い女の子なんだなって思っただけです!!」
まさかこんなに誉め殺しされるなんて誰が思っただろうか、というか案外恋愛に鈍そうだと勝手に思っていた日向くんに京治の前で態度が変わっていたことに気づかされるなんて...と恥ずかしくてしゃがみ込んで手で顔を覆った。こんなに赤くなった顔、見せられない
ふわり、と京治の香りがする。指の隙間から少しだけ上を見れば目の前に京治が立っていて
「俺以外にそんな顔見せんなよ」
と私だけに聞こえる小さな声で言ってタオルを頭に被せられた。京治の表情はよく見えなかったけれど、日向くんに「取りにくいトス上げてくから頑張って」なんて言っている辺り少し怒っているのかもしれない
ここにいるとずっと揶揄われる気しかしない、早く自主練終わってくれと願いながらみんなの練習風景を指の隙間からこっそりと眺めた
2016.04.11
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