引っ越しまでの3ヶ月なんてあっという間に過ぎていった。成人していれば新幹線で行ける宮城から東京までの距離なんて近く感じられるもので、特別友達からの見送りだとかそういうものはなかった。前の晩に美月ちゃんとその彼氏の岩泉くんと飲みに行ったくらいだ


「向こうで及川に会ったらよろしくな」


何を今更よろしくすることがあるのだろう。彼はどんな場所であれ目を惹くし、女の子に対してとても優しい、バレーに真剣に取り組む..誰がそんな人を放っておくというのか、なんて考えている自分に頭を抱えたくなった


「まだ好きなんでしょう、いい加減素直になりなって」

「好きって...どんなのだっけ...もうよくんかんないよ」

「お前ら2人とも拗らせ過ぎだろ...」


岩泉くんが遠い目をしてどこかを見つめる。ごめん、本当によくわからないんだ


「徹の大切なもの、邪魔したくないんだ」

「なまえ...」

「んなもん心配してんじゃねぇよ。あいつだって一応男だぞ、自分のことくらい自分で守れるだろ」


相変わらず貶すように話すから思わず笑ってしまう。そうだといいな、なんて心の声が漏れれば、もう答えは決まっているような気もする。でも実際には東京で彼と会えるかどうかもわからないし、ずっと連絡をとっていない携帯の連絡先も変わってしまっているかもしれない


「今グダグダ悩んだってどうにもなんねぇよ。その時はその時だ」

「一は男らしすぎるよ...」

「私もその男らしさが欲しい...」



なまえは女の子だからいらないの!なんて注意を受けながら笑った。こうして彼女らともなかなか会えなくなってしまう。すでにホームシックになりかけているのを悟ってか、美月ちゃんは私の背中をバシッと叩いて"何かあったらすぐに行くから"と言ってくれた。彼女も岩泉くんの影響を受けて男らしくなったようだ



新幹線から降りると、さすが東京だ...というほどの人の多さに頭がくらりとする。本当にこんな場所でやっていけるのかと不安もあるが、新しい生活が楽しみでもある


「さあ、頑張ろう」


キャリーバックをゴロゴロと転がして電車を乗り継ぎ、一人暮らしをするアパートへ足を運ぶ




(なまえ.....?)



呼ばれた気がして振り返ったけれどそこには誰もいなかった。気のせいか、と止めていた足をもう一度動かす


歩く道沿いにはひらひらと桜が舞っていた



2016.03.31